一 物品税または取引高税を逋脱する目的で、製造場から製品を移出販売しその代金を受領しながら、これについては所轄税務官吏には秘密の伝票帳簿を作成記入し、右官吏の検査に供すべき正規の帳簿に記入しないようなことをすれば、その行為は、物品税法(昭和二四年法律第二八六号による改正前のもの)第一八条第一項にいう「不正ノ行為ニヨリ物品税ヲ逋脱セントシ」、または取引高税法(同年法律第二八五号による廃止前のもの)第四一条第一項第三号にいう「不正の行為により取引高税を免れようとし」たものにあたる。 二 本件罐詰類についての物品税と取引高税は、昭和二四年法律二八六号(以下法二八六号と称す。)および同年法律二八五号(以下法二八五号と称す。)によつて、その各施行期日である昭和二五年一月一日以降廃止されたのであるが、右施行前に課し又は課すべきであつた物品税および右施行前に取引金額を受領した取引に係る取引高税については、法二八六号附則二項および法二八五号附則三項が「なお従前の例による」旨を規定しているので、それらの納付等については右各法律施行後においてもなお従前の各法律の適用があるわけである。しかし、右附則二項および附則三項の各規定は、右の趣旨を規定したに止まり、その逋脱に関する行為の処罰についてまで規制した趣旨のものとは解せられない。 三 昭和二四年法律二八六号附則八項および同年法律二八五号附則一〇項にいう「この法律施行前にした行為」とは、右各附則の他の規定の文言および他の法律等において使用されている一般の用語例に徴して見ても、その文言どおり、右各法律施行日である前記日時以前の行為を指示するものであつて、その施行後の好意を意味するものとは解せられない。
一 物品税法(昭和二四年法律第二八六号による改正前のもの)第一八条第一項にいう「不正ノ行為ニヨリ物品税ヲ逋脱セントシ」および取引高税法(同年法律第二八五号による廃止前のもの)第四一条第一項第三号にいう「不正の行為により取引高税を免れようとし」の意義 二 昭和二四年法律第二八六号(物品税法の一部を改正する法律)附則第二項および同法律第二八五号(織物消費税法等を廃止する法律)附則第三項にいう「なお従前の例による」旨の規定の趣旨 三 昭和二四年法律第二八六号(物品税法の一部を改正する法律)附則第八項および同法律第二八五号(織物消費税法等を廃止する法律)附則第一〇項にいう「この法律施行前にした行為」の意味
物品税法(昭和24年法律286号による改正前のもの)18条1項,取引高税法41条1項3号,昭和24年法律286号(物品税法の一部を改定する法律)附則2項,昭和24年法律285号(織物消費税法等―取引高税法を含む―を廃止する法律)附則3項
判旨
税法改正に伴う経過措置としての罰則の適用において、法律施行後に成立する「逋脱既遂犯」には施行前の罰則を適用できないが、施行前に行われた「不正の行為」自体を未遂罪等として処罰することは可能である。
問題の所在(論点)
税法が改正・廃止され、附則で「この法律施行前にした行為」に対して旧法の罰則を適用すると定められている場合、施行後に既遂に達する租税逋脱罪について、旧法の罰則を適用して処罰することができるか。
規範
法律の廃止・改正に伴う「なお従前の例による」との経過規定は、租税の納付義務を存続させる趣旨に留まり、当然に施行後の行為を処罰する趣旨を含まない。また「施行前にした行為」とは、文言通り施行日以前の行為を指し、施行後の行為を意味しない。もっとも、施行前に着手された「不正の行為」が存在すれば、既遂に至る前であっても、施行前の罰則により処罰が可能である。
重要事実
被告人らは、昭和24年12月分の物品税・取引高税を逋脱する目的で、正規の帳簿に記載せず、秘密の「B伝票・B帳簿」を作成して過少申告を行う等の不正行為を同月中に開始した。その後、翌年1月1日に物品税法等の改正法・廃止法が施行されたが、当該租税の納付期限(既遂時期)は施行後の1月末等であった。原審は、施行後に成立した既遂犯について「施行前にした行為」に含まれるとして、旧法の罰則を適用した。
あてはめ
本件における租税逋脱既遂犯は、納付期限の徒過(昭和25年1月中)によって成立するため、法律施行(同年1月1日)後の行為となり、附則の「施行前にした行為」には該当しない。したがって、既遂犯として旧法を適用した原審の判断には法令解釈の誤りがある。しかし、被告人らは施行前の24年12月中に、既に逋脱目的で秘密帳簿を作成し、正規帳簿への記入を回避する等の「不正の行為」を行っている。これは旧物品税法等における「不正の行為により~逋脱せんとした(免れようとした)」行為そのものであり、施行前の行為として旧法の罰則を適用し得る。結論として、既遂ではなく未遂罪相当の処罰が可能である以上、原判決の結論は維持されるべきである。
結論
施行後に既遂となる行為を既遂犯として処罰することはできないが、施行前に行われた不正行為自体を「施行前にした行為」として、旧法の罰則により処罰することは妨げられない。
実務上の射程
法令の改廃に伴う経過規定(罰則の適用)の解釈指針を示す。実行行為の着手が施行前であれば、既遂時期が施行後であっても「施行前の行為」として捉え、旧法の未遂罪やそれに準ずる規定で処罰できる可能性を示唆しており、時的適用範囲を検討する際の重要判例となる。
事件番号: 昭和26(あ)2974 / 裁判年月日: 昭和28年4月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律が廃止された場合であっても、附則において廃止前の行為に対する罰則の適用につき従前の例による旨の経過規定が置かれているときは、廃止前の違反行為を処罰することは憲法及び法令に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は取引高税法違反の罪に問われたが、同法は昭和25年1月1日をもって廃止された。しかし、…