一 労働争議に際し、被告人ら労組員が会社側幹部に暴行を加え且つ引き続き監禁した事件において、原判決が、争議に相当の理由があり、急速な解決を必要としたこと、会社側幹部が逃避的態度を示したこと、被告人等は組合員の勢に引き摺られたものであること、加えた危害が高度でないことなどの理由だけで前半の暴行を期待可能性がないものとして無罪とし、後半の不法監禁のみを有罪としたときは無罪の判断部分について法令の適用を誤つたかまたは理由不備の違法があることになる。 二 右のように原判決が一部無罪、一部有罪とした場合上告審が有罪部分には破棄事由がないが無罪部分について破棄事由があると認めたときは、原判決全部を破棄すべきである。
一 期待可能性がないとした判断が法令の適用の誤または理由不備であるとされた事例。 二 原判決が一部無罪、一部有罪としたとき、上告審が無罪の部分の判断が誤りであるとする場合の措置。
刑法37条,刑訴法380条,刑訴法378条4号,刑訴法411条,刑訴法413条
判旨
労働争議において暴行、脅迫、監禁といった犯罪構成要件に該当する行為が行われた場合、争議の背景や組合員の興奮等の事情があるとしても、適法な行為に出る自由がある限り、期待可能性を欠くとして責任を阻却することはできない。
問題の所在(論点)
労働争議に伴う暴行、脅迫、監禁行為について、争議の正当性や現場の興奮状態等の事情を考慮し、期待可能性の欠如を理由に責任を阻却することができるか。
規範
刑法における責任阻却事由としての期待可能性の理論を仮に認めるとしても、行為が犯罪構成要件に該当し、違法かつ責任能力および故意・過失が認められる以上、適法行為に出る自由が客観的に存在し、それを妨げる特段の法的根拠がない限り、安易に責任を否定することはできない。単に争議の白熱化や多衆の勢いに引きずられたといった主観的事情は、責任阻却を首肯するに足りる論拠とはならない。
重要事実
事件番号: 昭和26(れ)1209 / 裁判年月日: 昭和27年10月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】争議行為に伴う暴行・脅迫や不法監禁等の行為は、正当な争議行為の範域を逸脱するものであり、刑法35条及び旧労働組合法1条2項(現1条2項)による正当行為として免責されない。 第1 事案の概要:労働組合関係者らによる争議行為に際し、他者に対して暴行・脅迫(判示第一)及び不法監禁(判示第二)が行われた。…
鉱業所の配置転換に反対する労働組合の幹部(被告人ら)が、ストライキ中に会社幹部との面会を求めた。会社幹部が面会を回避したことに憤慨した被告人らは、一般組合員ら多衆と共に、会社幹部の意思に反して屋内へ乱入。幹部らを大広間へ連れ出して罵詈雑言を浴びせ、周囲を激しく足踏みして威圧した。さらに、会社幹部を三輪車に積み込んで組合専用の建物に拉致し、翌日未明まで監禁した。原審は、前半の暴行・脅迫については争議の白熱化等を理由に期待可能性がないとして無罪としたが、後半の監禁は有罪とした。
あてはめ
被告人らは、会社側が面会を拒否したとしても、代表者のみが入所して交渉する等の適法な手段を選択することが可能であった。多衆の勢いに引きずられたり、争議が白熱して興奮状態にあったとしても、それは「かくあるべき労働争議」の範疇を超える暴力的行為を正当化するものではない。原審が挙げた「相手方に加えた危害が高度ではない」「争議中には往々にして起こりがちである」といった事情は、刑法上の故意や責任を否定するに足りる法的根拠とはいえず、被告人らには適法行為を期待することが可能であったと評価される。
結論
本件各行為には期待可能性の欠如による責任阻却は認められず、暴力行為等処罰法違反および不法監禁罪が成立する。したがって、期待可能性がないとして無罪とした原判決には法律適用の誤りがある。
実務上の射程
期待可能性の理論について、最高裁は本判決においてその存否を明言せず、仮に認めるとしても極めて限定的な適用にとどまることを示した。実務上は、単なる心理的強制や周囲の状況による興奮程度では責任阻却は認められず、適法行為が物理的・客観的に著しく困難な場合にのみ検討の余地があるとする慎重な立場を採るべきである。
事件番号: 昭和35(あ)2920 / 裁判年月日: 昭和36年7月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合による行為であっても、多数で長時間取り囲み、脅迫を用いて相手方の自由意思を抑圧し、義務のないことを行わせる行為は、正当な組合活動の範囲を逸脱し、違法性を有する。 第1 事案の概要:被告人らは、労働組合の活動として、他の多数の組合員らと共に長時間にわたって被害者Aを取り囲んだ。その際、被告人…