一 たばこ専売法第二九条第二項にいう「販売」とは、不特定、多数人に対してなす目的を以てなされる有償的譲渡行為を指称するものであつて、必ずしも営利の目的を要するものと解すべきではない。 二 判示旅館業を営む者が、宿泊客等から煙草の購入方を依頼されるのを予想し、予め小売人から煙草を購入し置き、客の依頼のある都度、これを取り出し客に小売価格にて交付しても、それが社会共同生活の上において許容さるべきものと認められる以上、たばこ専売法第七一条第五号所定の販売罪または販売準備罪は成立しない。
一 たばこ専売法第二九条第二項にいう「販売」の意義 二 社会共同生活上許容さるべき行為とたばこ専売法第七一条第五号所定の販売罪または販売準備罪の成否
たばこ専売法29条2項,たばこ専売法71条5号,たばこ専売法60条1項
判旨
たばこ専売法上の「販売」とは、不特定多数人に対する有償譲渡を指すが、旅館業者が宿泊客の利便のために定価で少量のたばこを立替購入し交付する行為は、社会共同生活上許容されるため、同法上の「販売」や「販売の準備」には当たらない。
問題の所在(論点)
たばこ専売法(当時)における無許可の「販売」および「販売の準備」の意義と、旅館業者が宿泊客の利便のために行う少量のたばこ提供行為の可罰性。
規範
たばこ専売法上の「販売」とは、不特定多数人に対してなす目的を以てなされる有償的譲渡行為を指し、営利の目的は必ずしも必要ではない。しかし、当該行為が同法制定の趣旨・目的に反せず、社会共同生活の上において許容される範囲内のものである場合には、同法にいう「販売」または「販売の準備」に該当しない。
重要事実
旅館業を営む被告人は、宿泊客から煙草の購入を依頼される都度、500〜600m離れた唯一の小売店へ使いを出していた。しかし、夜間の閉店による不便や従業員の手数を避けるため、あらかじめ客の依頼を予想して、比較的需要の多い銘柄のたばこ約20個を定価で買い入れ、帳場の押し入れ内に保管していた。そして、客の依頼に応じて定価と同額で交付し、即時または宿泊料精算時に代金を受け取っていた。これが無許可販売(またはその準備)として起訴された。
あてはめ
被告人の行為は、不特定多数への譲渡を目的とするものではなく、宿泊客という特定の関係者の依頼を想定したものである。また、定価で買い入れたものを同額で交付しており、利益を得るものではない。このような行為は、小売店の利便性が低い環境において宿泊客の不便を解消するために必要な限度内で行われた立替購入の性質を有し、少量かつ限定的な範囲に留まっている。したがって、かかる行為は専売制度の趣旨を害さず、社会共同生活上許容される正当な範囲内の行為といえる。
結論
被告人の行為はたばこ専売法上の「販売」および「販売の準備」に該当しない。原判決を破棄し、被告人は無罪。
実務上の射程
形式的に処罰規定の構成要件に該当し得る行為であっても、行為の態様、目的、社会的文脈から「社会共同生活上許容される」場合には、実質的違法性が欠ける(または構成要件に該当しない)とする解釈の指針を示す。可罰的違法性論の文脈や、行政取締法規の合目的的解釈の素材として利用できる。
事件番号: 昭和38(あ)2204 / 裁判年月日: 昭和39年9月9日 / 結論: 棄却
一 公社または指定小売人でない者が、反復継続してする意図のもとに、製造たばこを他に販売する行為は、たばこ専売法第二九条第二項に違反するものであることは、当裁判所の判例とするところであつて、―昭和三三年(お)第一二六号同三五年六月二三日第一小法廷判決、刑集一四巻八号一〇八〇頁・昭和三七年(あ)第四一〇号同三七年九月一三日…
事件番号: 昭和30(あ)3255 / 裁判年月日: 昭和33年4月10日 / 結論: 破棄自判
被告人が、窃盗本犯から依頼を受けて、その窃取にかかる専売公社の製造たばこであるピース九百五十箱および光五百箱を、その情を知りながら代金合計五万三千円で特定人に売却する周旋をしたとしても、被告人の所為はたばこ専売法第二九条第二項の販売をしまたはこれを幇助したものということはできない