一 刑法第一九七条にいう「其職務ニ関シ」とは、当該公務員の職務執行行為ばかりでなく、これと密接な関係のある行為に関する場合をも含むものと解するのが相当である。 二 農林大臣が、復興金融金庫から融資を受けようと考えている業者(製粉株式会社の社長H)に対し、右融資斡旋の申請書に添付すべき副申書を作成すべき権限ある食糧事務所長宛に「H君を紹介申上候よろしく願上候」と記載しサインした農林大臣名義の紹介名刺一枚を交付しまた復興金融金庫融資部長を紹介するが如き行為は、農林大臣の職務執行行為またはこれと密接な関係がある行為ということはできない。
一 刑法第一九七条にいう「其職務ニ関シ」の意義 二 右職務にあたらない事例−業者を紹介する行為と農林大臣の職務
刑法197条,内閣法3条1項,行政官庁法1条,行政官庁法3条,行政官庁法4条,行政官庁法8条,農林省官制1条,食糧管理局官制1条,食糧管理局官制4条,農林省分課規程4条,食糧管理局分課規程1条,食糧管理局分課規程2条,食糧管理局分課規程3条,復興金融金庫法15条1号,復興金融金庫法31条,復興金融金庫法施行令34条
判旨
収賄罪における「その職務に関し」とは、公務員の職務執行行為そのものだけでなく、これと密接な関係のある行為を含むが、大臣による紹介名刺の交付や部下でない者への紹介行為は、本来の職務執行行為と密接な関係があるとは認められない。
問題の所在(論点)
公務員(大臣)がその本来の職務権限に属さない紹介行為等を行い、その対価として金員を受領した場合、刑法197条1項の「その職務に関し」の要件を満たすか。
規範
刑法197条1項の収賄罪にいう「其職務ニ関シ」とは、当該公務員の職務執行行為そのものばかりではなく、これと密接な関係のある行為に関する場合をも含むものと解するのが相当である。
重要事実
農林大臣であった被告人Cは、融資を希望する被告人Dに対し、農林大臣の肩書を付した紹介名刺を交付した。また、CはDを復興金融金庫(復金)の融資部長に紹介した。Dはこれらに対する謝礼等の趣旨で現金30万円をCに供与した。農林大臣の職務権限には融資の計画策定や省議の主宰等が含まれていたが、復金は農林省の所管ではなく、融資部長もCの部下ではなかった。
あてはめ
紹介名刺の交付について、名刺交付は申請書類の整備という準備的段階に利用されたに過ぎず、職務に関係はあるものの「職務執行行為と密接な関係のある行為」とまではいえない。次に融資部長の紹介について、復金は農林大臣の監督下になく、融資部長も大臣の部下ではない。したがって、大臣としての本来の職務権限に属さず、かつ職務に密接な関係があるとも認められない。
結論
被告人Cの行為は「その職務に関し」賄賂を受領したものとは認められず、収賄罪は成立しない(無罪)。
実務上の射程
「職務密接関連行為」の概念を認める一方、職務権限の範囲外の行為については、単なる便宜供与や紹介に留まる限り、密接関連性を厳格に判断し収賄罪の成立を限定する。答案上は、職務権限を認定した上で、当該行為が権限内か、あるいは権限に密接に関連するかを個別具体的に検討する際の準拠枠組みとなる。
事件番号: 昭和26(れ)491 / 裁判年月日: 昭和28年4月28日 / 結論: その他
鉄道警備係が闇物資の輸送を黙認するよう請託を受け、金品を収受すれば刑法一九七条一項後段の収賄罪となる。