警察官が職務として行つたものであつても、終始何人に対しても警察官でないことを装つてした本件電話盗聴行為は、職権を濫用して行つたものとはいえず、公務員職権濫用罪を構成しない。
警察官の電話盗聴行為が公務員職権濫用罪を構成しないとされた事例
刑法193条
判旨
刑法193条の公務員職権濫用罪における「職権」とは、公務員の一般的職務権限のうち、相手方に法律上・事実上の負担を生じさせるに足りる特別な職務権限を指し、本罪の成立にはこの性質を持つ職権の濫用が必要である。警察官が身分を隠匿して秘密裏に行った盗聴行為は、職権の行使としての外観や性質を欠くため、同罪には当たらない。
問題の所在(論点)
警察官が職務として行う不法な盗聴行為について、公務員職権濫用罪(刑法193条)における「職権の濫用」が認められるか。特に、公務員としての身分を隠匿し、相手方に職権行使を認識させない態様の不法行為が「職権」の行使にあたるかが問題となる。
規範
刑法193条にいう「職権」とは、公務員の一般的職務権限のすべてを指すのではなく、そのうち、職権行使の相手方に対し法律上、事実上の負担ないし不利益を生ぜしめるに足りる「特別の職務権限」をいう。同罪が成立するためには、公務員の不法な行為が、右の性質をもつ職務権限を「濫用」して行われたことを要する。したがって、たとえ不法行為が職務として行われたとしても、職権を濫用して行われない限り、同罪は成立しない。
重要事実
警察官である被疑者らは、日本共産党に関する警備情報を得る目的で、同党幹部宅の電話を盗聴した。被疑者らは、この行為が電気通信事業法に触れる違法なものであることから、電話回線への工作や場所の確保、盗聴の実施に至るまで、終始一貫して警察官による行為であることを隠し、第三者による行為を装って隠密に行動していた。
事件番号: 昭和26(し)109 / 裁判年月日: 昭和28年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】付審判請求の対象は、刑法193条ないし196条の罪(職権濫用罪等)について告訴・告発がなされた場合に限定される。公務員が調査要求を斥けたに過ぎない行為は、職権を濫用して他人の権利行使を妨害したものとはいえず、同罪の構成要件を欠くため付審判請求は不適法となる。 第1 事案の概要:抗告人は、町長および…
あてはめ
本件における被疑者らの盗聴行為は、その全般を通じて終始、何人に対しても警察官による行為でないことを装って行われていた。このような隠密な行動は、相手方に対し「特別な職務権限」を行使して法律上・事実上の負担を強いるという職権行使の態様を欠いている。公務員の不法な行為が単に職務としてなされただけでは足りず、公務員としての職権を利用した濫用行為といえる外観や性質が必要であるところ、本件では警察官としての職権の濫用があったとは認められない。
結論
被疑者らの行為には警察官に認められている「職権の濫用」があったとみることはできず、公務員職権濫用罪は成立しない。
実務上の射程
本判決は、公務員職権濫用罪の成立範囲を、単なる職務関連の不法行為ではなく「特別な職務権限の濫用」に限定した。答案上は、公務員が身分を隠して行う私的な犯罪に類する態様の不法行為(秘密裏の住居侵入や盗聴など)については、たとえそれが公的な目的や職務に関連して行われたものであっても、193条の「職権」には該当しないとする判断基準として用いる。
事件番号: 昭和45(し)83 / 裁判年月日: 昭和45年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】付審判請求事件において、第一審が確定した事実関係に基づき公務員職権濫用罪が成立しないと判断したことは正当であり、憲法違反等の主張は特別抗告の適法な理由にならない。 第1 事案の概要:本件は付審判請求事件である。第一審において、被請求人らによる公務員職権濫用罪の成立を否定する決定がなされた。これに対…
事件番号: 昭和43(し)25 / 裁判年月日: 昭和43年5月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法433条に基づく特別抗告において、憲法違反を主張する場合には、原決定のいかなる点がどのように憲法条項に違反するかを具体的に主張しなければならず、抽象的な主張に留まるものは適法な抗告理由にあたらない。 第1 事案の概要:申立人は、自身が告訴した公務員職権濫用被疑事件について検察官がなした不…
事件番号: 昭和32(し)41 / 裁判年月日: 昭和33年8月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】付審判請求において、前提となる法律の違憲性を主張する場合であっても、被疑事実としての具体的犯罪行為の存在について嫌疑がないと判断される限り、当該違憲の主張は結論に影響を及ぼさない。 第1 事案の概要:特別抗告申立人が、土地測量に伴う警察官の警備行動について、特別公務員暴行傷害罪等の嫌疑があるとして…
事件番号: 平成4(し)120 / 裁判年月日: 平成6年3月29日 / 結論: 棄却
大阪府警察本部通達に基づいて警察署長から委嘱を受け、非行少年等の早期発見・補導等を行う少年補導員(判文参照)は、警察署長から私人としての協力を依頼され、警察官と連携しつつ少年の補導等を行うものであって、警察の職務を補助する職務権限を何ら有するものではなく、刑法一九五条一項にいう警察の職務を補助する者に当たらない。