報道機関の取材ビデオテープに対する捜査機関の本件差押処分は、右テープが重大な被疑事件の解明にほとんど不可欠であり、報道機関による右テープの放映自体には支障をきたさないなどの具体的事情の下においては、憲法二一条に違反しない。
報道機関の取材ビデオテープに対する捜査機関の差押処分が憲法二一条に違反しないとされた事例
憲法21条,憲法35条,刑訴法218条1項,刑訴法218条3項
判旨
報道機関の取材結果に対する捜査機関の差押処分は、犯罪の性質や証拠価値等の捜査上の必要性と、報道・取材の自由が妨げられる程度を比較衡量し、差押えがやむを得ないと認められる場合に許容される。本件では、重大な贈賄事件においてビデオテープが犯罪成否の判断に不可欠な証拠であり、かつ放映済みで不利益が限定的であることから、差押処分は合憲である。
問題の所在(論点)
捜査機関が報道機関の取材結果(ビデオテープ)を差し押さえることが、憲法21条の保障する報道の自由・取材の自由を侵害し、違憲とならないか。特に、博多駅事件決定の比較衡量基準が捜査段階の差押えにも妥当するかが問題となる。
規範
報道の自由および取材の自由は、憲法21条の保障・趣旨の下で十分尊重されるべきであるが、公正な刑事裁判の実現という憲法上の要請がある場合には制約を受ける。差押処分の可否は、①犯罪の性質・内容・軽重、②取材結果の証拠価値・捜査上の必要性と、③報道・取材の自由が妨げられる程度および将来の取材への影響等の諸般の事情を「比較衡量」して決すべきである。この基準は、裁判所による提出命令のみならず、捜査機関による差押処分についても同様に適用される。
重要事実
検察事務官が、リクルート疑惑に関連する贈賄被疑事件の捜査のため、テレビ局が所有するビデオテープ(未放映部分を含む)を差し押さえた。当該事件は社会的関心の高い重大事案であったが、被疑者が否認し、相手方の記憶も不明確なため、事実認定に疑点が残っていた。他方、当該テープは既に放映編集を終えたものであり、取材経緯も情報提供者(贈賄相手方)の依頼に基づくという特殊な事情があった。テレビ局側は、取材の自由を侵害する憲法21条違反であるとして不服を申し立てた。
事件番号: 昭和33(し)62 / 裁判年月日: 昭和33年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】学問の自由であっても公共の福祉による内在的制限を受け、犯罪捜査に必要な捜索・差押えを免れる絶対的な特権ではないが、捜査機関はその執行に際し、学問の自由を阻害しないよう十分な考慮を払うべきである。 第1 事案の概要:教育研究所(A)に対し、警察が犯罪捜査を目的として捜索・差押えの令状を執行しようとし…
あてはめ
まず、本件贈賄事件は国民の関心が極めて高い重大な事犯である。証拠面では、当事者の供述に頼らざるを得ない中で否認等がなされており、面談状況を記録したビデオテープは犯罪成否の判断に「ほとんど不可欠」な証拠価値を有していた(要素①②肯定)。次に報道側の不利益をみると、本件は既に放映済みであり、差押えにより報道の機会自体が奪われるわけではなく、不利益は「将来の取材の自由が妨げられるおそれ」に留まる。また、取材経緯が情報提供者からの依頼に基づく特殊なものであることも不利益を相対化させる(要素③の限定)。これらを比較衡量すれば、適正迅速な捜査の要請が優越する。
結論
本件差押処分は、報道・取材の自由を尊重すべき考慮を経た上でも、なお捜査のために忍受されるべき範囲内にあり、憲法21条に違反しない。
実務上の射程
報道機関に対する強制処分が問題となる事案全般において、博多駅事件決定(裁判段階)の比較衡量枠組みを捜査段階へも射程を広げて適用した判例として位置づけられる。答案上は、捜査の必要性(代替証拠の有無)と報道の不利益(放映済みか否か、将来への影響)の二軸で、事実関係を具体的に評価する際の指針となる。
事件番号: 平成2(し)74 / 裁判年月日: 平成2年7月9日 / 結論: 棄却
報道機関の取材ビデオテープが軽視できない悪質な被疑事件の全容を解明する上で重要な証拠価値を持ち、他方、右テープが被疑者らの協力によりその犯行場面等を撮影収録したものであり、右テープを編集したものが放映済みであって、被疑者らにおいてその放映を了承していたなど判示の事実関係の下においては、右テープに対する捜査機関の差押処分…
事件番号: 昭和36(し)54 / 裁判年月日: 昭和37年1月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法60条1項2号の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」とは、単にそのおそれがないとはいえない状態を指すのではなく、諸般の事情に照らして罪証を隠滅する事態を生ずる蓋然性があると予測される場合をいう。 第1 事案の概要:被疑者ら9名は地方公務員法違反の容疑をかけられ、岩手県教員…
事件番号: 昭和42(し)69 / 裁判年月日: 昭和42年12月20日 / 結論: 棄却
前に逮捕状の発付があつた同一被疑者に対する再度の逮捕状の発付が、いわゆる逮捕のむしかえしによる逮捕権の濫用と認められないときは、右逮捕状の請求書に刑訴規則第一四二条第一項第八号所定の事項の記載を欠いていても、右の逮捕およびこれにひきつづきなされた勾留は違法ではない。
事件番号: 令和7(し)1043 / 裁判年月日: 令和7年11月27日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】勾留の必要性の判断において、第1審が罪証隠滅の現実的可能性を具体的に検討し、一定の合理性のある理由でこれを否定した場合、抗告審が第1審の評価の不合理性を実質的に示さずにこれを取り消すことは許されない。罪証隠滅のおそれは、客観的証拠の収集状況や関係者との人的関係の有無等を総合し、現実的可能性の程度を…