一 証券取引法(昭和六三年法律第七五号による改正前のもの)一二五条二項一号後段は、有価証券の相場を変動させるべき一連の売買取引等のすべてを違法とするものではなく、人為的な操作を加えて相場を変動させるにもかかわらず、投資者にその相場が自然の需給関係により形成されるものであると誤認させて有価証券市場における有価証券の売買取引に誘い込む目的をもってする、相場を変動させる可能性のある売買取引等を禁止するものである。 二 証券取引法(昭和六三年法律第七五号による改正前のもの)一二五条二項一号後段違反の罪及び同条三項違反の罪は、刑法六五条一項にいう身分によって構成すべき犯罪ではない。
一 証券取引法(昭和六三年法律第七五号による改正前のもの)一二五条二項一号後段の意義 二 証券取引法(昭和六三年法律第七五号による改正前のもの)一二五条二項一号後段違反の罪及び同条三項違反の罪と刑法六五条一項にいう身分によって構成すべき犯罪
証券取引法80条2項,証券取引法(昭和63年法律75号による改正前のもの)107条,証券取引法(昭和63年法律75号による改正前のもの)125条2項1号後段,証券取引法(昭和63年法律75号による改正前のもの)125条3項,証券取引法(昭和56年法律62号による改正前のもの)197条2号,刑法65条1項
判旨
相場操縦等の罪(証券取引法125条2項、3項)は、取引所会員以外の者も委託を通じて市場取引が可能であり、主体を「何人も」と定めていることから、刑法65条1項にいう身分犯ではない。
問題の所在(論点)
証券取引法(現・金融商品取引法)125条2項1号後段の変動操作の罪及び同条3項の安定操作の罪は、証券取引所の会員という「身分」によって構成される真正身分犯(刑法65条1項)にあたるか。
規範
1. 証券取引法125条2項1号後段の「誘引する目的」とは、人為的操作により相場を変動させるにもかかわらず、投資者にその相場が自然の需給関係により形成されるものであると誤認させて取引に誘い込む目的をいう。 2. 同条2項及び3項の罪は、同法107条により直接の売買が会員に限定されていても、非会員が会員への委託を通じて市場の公正(保護法益)を侵害し得る。したがって、主体を「何人も」と規定するこれら各罪は、刑法65条1項の身分によって構成すべき犯罪(真正身分犯)ではない。
事件番号: 平成18(あ)2174 / 裁判年月日: 平成19年7月12日 / 結論: 棄却
1 出来高に関し他人に誤解を生じさせる目的は,価格操作ないし相場操縦の目的を伴わない場合でも,証券取引法(平成12年法律第96号による改正前のもの)159条1項柱書きにいう「取引が繁盛に行われていると誤解させる等これらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的」に当たる。 2 いわゆる自己両建ての有価証券オプション取…
重要事実
被告人A及びBは、証券取引所の会員ではないが、相場を変動させるべき一連の売買取引等を行ったとして、証券取引法違反(変動操作の罪及び安定操作の罪)に問われた。原審は、同法107条に基づき取引所における売買は会員に限定されていることを理由に、本罪を真正身分犯と解し、非会員である被告人らに対し刑法65条1項を適用して有罪としたため、その適否が争点となった。
あてはめ
1. 同法125条2項・3項は、いずれも禁止行為の主体を「何人も」と規定しており、文言上限定がない。 2. 証券取引所の会員以外の者であっても、会員に委託することによって有価証券市場における売買取引を行うことができる。これにより、非会員であっても市場の公正という保護法益を自ら侵害することが可能である。 3. 同法107条が売買取引を会員に限定しているのは、証券取引所の組織的理由にすぎず、125条の規制対象を会員に限定する趣旨ではない。
結論
変動操作の罪及び安定操作の罪は、刑法65条1項にいう身分によって構成すべき犯罪ではない。したがって、非会員についても直接同条項の構成要件に該当し得る。
実務上の射程
本判決は金融商品取引法における相場操縦の主体性について述べており、身分犯であることを否定した。答案上は、非会員による犯行について刑法65条1項の適否を論じる際、同条を適用せずとも「何人も」という文言と委託による取引可能性から直接正犯性を肯定する根拠として用いる。
事件番号: 平成25(あ)1676 / 裁判年月日: 平成27年4月8日 / 結論: 棄却
1 金融商品取引法(平成20年法律第65号による改正前のもの)166条1項1号にいう「役員,代理人,使用人その他の従業者」とは,上場会社等の役員,代理人,使用人のほか,現実に当該上場会社等の業務に従事している者を意味し,当該上場会社等との委任,雇用契約等に基づいて職務に従事する義務の有無や形式上の地位・呼称のいかんを問…
事件番号: 昭和40(あ)1027 / 裁判年月日: 昭和41年9月6日 / 結論: 棄却
有価証券の信用取引において、証券業者が、顧客から保証金の代用として預託を受けた有価証券につき、顧客の同意の範囲外である売却処分をしたときは、業務上横領罪が成立する。
事件番号: 平成19(あ)1462 / 裁判年月日: 平成22年5月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上の任務に背き、他者の利益を図り本人に損害を与える目的(図利加害目的)をもって、実態のない形式的な取引を行い、会社資金を流出させた行為は、背任罪(刑法247条)を構成する。本件では、融資の形式を採りつつも、返済の意思や能力がない相手方に対し、十分な担保を確保せずに多額の資金を交付した行為につい…
事件番号: 平成21(あ)375 / 裁判年月日: 平成23年6月6日 / 結論: 棄却
証券取引法(平成18年法律第65号による改正前のもの)167条2項にいう「公開買付け等を行うことについての決定」をしたというためには,同項にいう「業務執行を決定する機関」において,公開買付け等の実現を意図して,公開買付け等又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされれば足り,公開買付け等の実現可能性がある…