一 刑訴法はいわゆる刑事免責の制度を採用しておらず、刑事免責を付与して得られた供述を録取した嘱託証人尋問調書を事実認定の証拠とすることは許容されない。 二 内閣総理大臣が運輸大臣に対し民間航空会社に特定機種の航空機の選定購入を勧奨するよう働き掛けることは、内閣総理大臣の運輸大臣に対する指示として、賄賂罪の職務行為に当たる。 (一につき補足意見,二につき補足意見及び意見がある。)
一 いわゆる刑事免責を付与して得られた供述を録取した嘱託証人尋問調書の証拠能力 二 内閣総理大臣が運輸大臣に対し民間航空会社に特定機種の航空機の選定購入を勧奨するよう働き掛けることと賄賂罪における職務行為
刑訴法1条,刑訴法146条,刑訴法226条,刑訴法248条,刑訴法317条,憲法38条1項,憲法66条,憲法68条,憲法72条,刑法(昭和55年法律30号による改正前のもの)197条1項,刑法(昭和55年法律30号による改正前のもの)198条1項,運輸省設置法(昭和47年法律105号による改正前のもの)3条11号,運輸省設置法(昭和47年法律105号による改正前のもの)4条1項44号の9,運輸省設置法(昭和47年法律105号による改正前のもの)28条の2第1項13号,航空法(昭和48年法律113号による改正前のもの)100条1項,航空法(昭和48年法律113号による改正前のもの)101条,航空法(昭和48年法律113号による改正前のもの)109条,航空法施行規則(昭和48年運輸省令59号による改正前のもの)210条1項,航空法施行規則(昭和48年運輸省令59号による改正前のもの)220条,内閣法4条,内閣法6条,内閣法8条
判旨
刑事免責制度は刑訴法に規定がないため、これを付与して得られた供述の証拠能力は否定される。一方、賄賂罪における職務権限は、内閣総理大臣の行政各部に対する広範な指示権に基づき、閣議決定がない場合でも肯定される。
問題の所在(論点)
1. 刑訴法に定めのない刑事免責を付与して獲得した嘱託証人尋問調書に証拠能力が認められるか。 2. 内閣総理大臣が運輸大臣に対し、特定機種の購入を勧奨するよう働きかける行為は、賄賂罪における「職務」に含まれるか。
規範
1. 証拠能力:刑訴法に規定のない刑事免責制度(自己負罪拒否特権を失わせる代わりに訴追しないことを確約する制度)を付与して得られた供述を事実認定の証拠とすることは、公正な刑事手続の観点から許容されない。 2. 職務権限:賄賂罪の「職務」とは、公務員の一般的職務権限に属する行為をいう。内閣総理大臣は、行政各部を指揮監督する地位(憲法72条)に基づき、閣議決定の方針がない場合でも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対しその所掌事務について指導・助言等の「指示」を与える権限を有する。また、行政機関がその所掌事務の範囲内で一定の行政目的のために行う「行政指導」も職務権限に属する。
事件番号: 平成20(あ)738 / 裁判年月日: 平成22年9月7日 / 結論: 棄却
北海道開発庁長官が,下部組織である北海道開発局の港湾部長に対し,競争入札が予定される港湾工事の受注に関し特定業者の便宜を図るように働き掛ける行為は,同長官に港湾工事の実施に関する指揮監督権限がなく,また,その行為が談合にかかわる違法なものであるとしても,港湾工事に係る予算の実施計画作製という同長官の職務に密接な関係があ…
重要事実
1. 検察官が、米国在住の証人らに対し、将来にわたり公訴を提起しない旨を確約(刑事免責を付与)して国際司法共助による証人尋問を行い、その尋問調書を証拠請求した。 2. 被告人Bは、内閣総理大臣Eに対し、全日空(F社)に特定機種(L1011型機)を選定購入させるよう運輸大臣に働きかけることを請託し、賄賂を供与した。当時、運輸大臣による機種選定の勧奨について直接の閣議決定は存在しなかった。
あてはめ
1. 刑事免責について:刑訴法は同制度を採用しておらず、国際司法共助の過程であっても、我が国の法にない制度で獲得された証拠を事実認定に用いることは刑事訴訟の基本精神に反し、許容されない。 2. 職務権限について:(1) 運輸大臣は航空法の認可権限等に基づき、行政目的の範囲内で特定機種の購入を勧奨する行政指導を行う権限を有する。(2) 内閣総理大臣は、内閣の首長として行政各部を統括する地位にあり、閣議決定がない場合でも運輸大臣に対し随時指示を与える権限がある。したがって、内閣総理大臣が運輸大臣を介して民間企業に働きかける行為は、その一般的職務権限に属するといえる。
結論
1. 刑事免責を付与して得られた証人尋問調書の証拠能力は否定される。 2. 内閣総理大臣の運輸大臣に対する働きかけは職務権限に属し、贈賄罪が成立する。
実務上の射程
刑事免責については、後の刑事訴訟法改正(平成28年)により「協議・合意制度」が導入されたため、現行法下では同制度の要件充足性を検討すべきだが、法定外の手続の違法性を論ずる際のリーディングケースとして重要である。職務権限については、内閣総理大臣の権限を極めて広範に認めた点に射程があり、直接の具体的権限がない場合の「職務関連性」の立論において不可欠な判例である。
事件番号: 昭和61(あ)1297 / 裁判年月日: 平成4年9月18日 / 結論: 棄却
一 議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律により一個の宣誓に基づき同一の証人尋問手続においてされた数個の虚偽の陳述は、同法六条一項違反の罪として、一罪を構成する。 二 議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律八条(昭和六三年法律第八九号による改正前のもの)による告発が、同法六条一項違反の罪として一罪を構成する…
事件番号: 昭和49(あ)2673 / 裁判年月日: 昭和50年5月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】輸出貿易管理令に基づく輸出承認制度による制限は、公共の福祉のために必要な合理的制限として憲法22条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人らは、通商産業大臣(当時)の承認を受けることなく、輸出貿易管理令1条1項1号に指定された貨物を輸出した。この行為が、外国為替及び外国貿易管理法(当時)違反(…
事件番号: 昭和31(あ)4601 / 裁判年月日: 昭和32年10月11日 / 結論: 棄却
一 外国にある弗預金を取得した代償として本邦の居住者に対して基準外国為替相場を超える支払をした場合は、外国為替及び外国貿易管理法第二八条と同法第七条第六項違反の罪が成立し、両者は観念的競合になる。 二 国外に去ることが明らかな参考人の検察官面前調書であつても証拠能力を失うものではない。