一 覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩粉末を麻薬であるコカインと誤認して所持した場合には、麻薬取締法六六条一項、二八条一項の麻薬所持罪が成立する。 二 覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩粉末を麻薬であるコカインと誤認して所持した場合における覚せい剤の没収は、覚せい剤取締法四一条の六によるべきである。
一 覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩粉末を麻薬であるコカインと誤認して所持した場合の罪責 二 覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩粉末を麻薬であるコカインと誤認して所持した場合における没収の適条
刑法19条1項1号,刑法38条2項,麻薬取締法28条1項,麻薬取締法66条1項,麻薬取締法68条,覚せい剤取締法14条1項,覚せい剤取締法41条の2第1項1号,覚せい剤取締法41条の6
判旨
覚せい剤を麻薬と誤認して所持した場合、両罪の構成要件は軽い麻薬所持罪の限度で実質的に重なり合うため、麻薬所持罪が成立する。また、没収については社会的危険防止の観点から、客観的事態に即して覚せい剤取締法の没収規定を適用すべきである。
問題の所在(論点)
1. 覚せい剤を麻薬と誤認して所持した場合に、いかなる罪の故意および犯罪が成立するか(刑法38条2項の適用範囲)。 2. 成立した犯罪が麻薬所持罪である場合に、所持していた覚せい剤を覚せい剤取締法の規定により没収できるか。
規範
認識した事実と発生した事実が異なる抽象的事実の錯誤が生じた場合、両罪の構成要件が実質的に重なり合う限度において、軽い方の罪の故意を認めることができる。また、薬物の没収は目的物の社会的危険を防止する保安処分的性格を有するため、成立した犯罪の種類にかかわらず、客観的に存在する物件の性質に応じた没収規定を適用するのが相当である。
重要事実
被告人は、覚せい剤である粉末(フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩)を、麻薬であるコカインであると誤認して所持した。覚せい剤所持罪(覚せい剤取締法41条の2第1項1号)は麻薬所持罪(麻薬取締法66条1項)よりも法定刑が重い。第一審判決は麻薬所持罪の成立を認めつつ、没収については覚せい剤取締法41条の6を適用した。
あてはめ
1. 被告人は麻薬所持の意思で覚せい剤所持を実現したが、両罪は目的物の差異と刑の軽重があるのみで、構成要件要素は共通する。麻薬と覚せい剤の類似性から、両罪は軽い麻薬所持罪の限度で実質的に重なり合う。被告人は重い覚せい剤所持の認識を欠くため、刑法38条2項により重い罪では処罰できず、重なり合う限度で軽い麻薬所持罪が成立する。 2. 没収について、処罰の対象は「覚せい剤を所持した行為」という客観的事態である。薬物没収の保安処分的性格に鑑みれば、有責な犯罪成立を待たずとも、客観的に該当する覚せい剤取締法41条の6に基づき没収を行うのが相当である。
結論
被告人には麻薬所持罪が成立する。また、本件覚せい剤の没収については、覚せい剤取締法41条の6を適用すべきである。
実務上の射程
抽象的事実の錯誤(刑法38条2項)において「実質的重なり合い」を認める際の代表的判例。答案では、保護法益と行為態様の共通性(薬物事犯等)から重なり合いを導く。また、没収規定の適用が主刑の罪名に拘束されない(客観的性質による)点も実務上重要である。
事件番号: 平成1(あ)1038 / 裁判年月日: 平成2年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】覚せい剤の輸入・所持において、当該物件が覚せい剤であると確定的に認識していなくても、身体に有害で違法な薬物類であるとの認識があれば、覚せい剤輸入・所持罪の故意を認めることができる。 第1 事案の概要:被告人は、本件物件を密輸入して所持した。その際、被告人は、当該物件が「覚せい剤」そのものであると確…
事件番号: 昭和52(あ)836 / 裁判年月日: 昭和54年3月27日 / 結論: 棄却
一 営利の目的で、麻薬であるジアセチルモルヒネの塩類粉末を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、麻薬取締法六四条二項、一項、一二条一項の麻薬輸入罪が成立する。 二 税関長の許可を受けないで、麻薬を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、関税法一一一条一項の無許可輸入罪が成立する。