本位的訴因の犯罪事実も予備的訴因の犯罪事実も同一の被害者に対する同一の交通事故に係るものであり、過失の態様についての証拠関係上本位的訴因と予備的訴因とが構成された場合において、予備的訴因に沿う事実を認定した第一審判決に対し被告人のみが控訴して破棄差戻しになつたとき、第二次第一審裁判所が本位的訴因について審理判決することは違法でない。
被告人の控訴により差し戻された事件の第二次第一審裁判所が第一次第一審で否定された本位的訴因につき判決したことに違法はないとされた事例
刑訴法312条,刑訴法392条2項,刑訴法400条
判旨
予備的訴因を認定した第一審判決に対し被告人のみが控訴し、差戻しがなされた場合であっても、検察官が本位的訴因の追行を断念したとみる余地はないため、差戻後の裁判所が本位的訴因に基づき有罪判決を下すことは適法である。
問題の所在(論点)
予備的訴因を認定した第一審判決に対し被告人のみが控訴し、その後差戻しがなされた場合において、差戻後の裁判所が、第一審で排斥された本位的訴因に基づき有罪判決を下すことが許されるか。
規範
本位的訴因と予備的訴因が同一の被害者に対する同一の交通事故に係るものであり、証拠関係上の過失の態様の差異から予備的訴因が構成されたにすぎない場合、予備的訴因を認定した第一審判決に対し被告人のみが控訴したことをもって、検察官が本位的訴因の追行を断念し、当該訴因が攻撃防御の対象から外れたと解することはできない。
重要事実
被告人は、大型貨物自動車を運転中の過失により自転車に衝突し、被害者に傷害を負わせたとして業務上過失致傷罪で起訴された。検察官は、事故時の注意義務の内容等の態様について、本位的訴因のほか予備的訴因を追加した。第一次第一審は予備的訴因を認定して有罪としたが、被告人のみの控訴による第一次控訴審にて、証拠上の合理的な疑いを理由に破棄差戻しとなった。第二次第一審(差戻後)において、検察官は本位的・予備的両訴因を維持すると釈明し、裁判所は本位的訴因を認定して有罪を言い渡した。これに対し、被告人が本位的訴因での有罪認定を不服として上告した。
事件番号: 平成12(あ)1242 / 裁判年月日: 平成15年2月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】訴因における過失の態様を具体化・補充する程度の認定であれば、訴因変更手続を経る必要はないが、第一審判決に事実誤認がある場合には、訴因変更命令義務の有無にかかわらず当該判決は破棄されるべきである。 第1 事案の概要:被告人が「進路前方を注視せず、進路の安全を確認しなかった」という過失の態様で起訴され…
あてはめ
本件における本位的訴因と予備的訴因は、いずれも同一の被害者に対する同一の交通事故を対象とするものであり、過失の具体的態様の評価の差異にすぎない。第一次第一審で予備的訴因が認定された際、被告人側が控訴したとしても、検察官が本位的訴因を明示的に放棄した事実はなく、攻撃防御の対象から外れたとはいえない。したがって、差戻後の審理において検察官が両訴因を維持する旨を釈明した以上、裁判所が本位的訴因を審理・認定することは訴訟手続上適法である。
結論
第二次第一審裁判所が本位的訴因について審理・判決した点に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)との関係が問題となる場面であるが、本判決は、訴因の予備的記載がある場合において、控訴・差戻しを経て本位的訴因に立ち戻って認定することの許容性を認めたものである。過失犯の態様の差異など、単一の歴史的事実の評価に差異があるにすぎない場合には、本判例の論理が妥当する。
事件番号: 昭和62(あ)1051 / 裁判年月日: 昭和63年10月24日 / 結論: 棄却
自動車運転者に速度調節義務を課す根拠となる路面の滑りやすい原因と程度に関する具体的事実として、石灰の粉塵の路面への堆積凝固という事実が、公訴事実中に記載され、その後訴因変更手続を経て撤回されたとしても、被告人の防禦権が侵害されたとは認められない本件においては、右事実を認定することに違法はない。
事件番号: 昭和27(あ)5410 / 裁判年月日: 昭和29年3月16日 / 結論: 棄却
証人Aの供述につき所論のように弁護人の異議申立により排除決定があつたのは、Bからの伝聞事項に関する部分のみであること原判決の説示するとおりである。そして第一審判決が証拠に引用したのは、前記証人の直接見分した事実に関する供述部分であると原審は認めたのであつて、その判断に誤りはない。