一 人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律三条一項にいう「工場又は事業場における事業活動に伴つて人の健康を害する物質を排出し」とは、工場又は事業場における事業活動の一環として行われる廃棄物その他の物質の排出の過程で、人の健康を害する物質を工場又は事業場の外に何人にも管理されない状態において出すことをいい、事業活動の一環として行われる排出とみられる面を有しない他の事業活動中に、過失によりたまたま人の健康を害する物質を工場又は事業場の外に放出するに至らせたとしても、同法三条の罪には当たらない。 二 工場において、タンクローリーで運搬されてきた液体塩素を貯蔵タンクに受け入れるに際し、その作業に従事していた未熟練技術員が右タンクの受入れバルブを閉めようとして誤つてパージバルブを開け、大量の塩素ガスを大気中に放出させて付近住民に傷害を負わせた事故については、人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律三条の罪は成立しない。 三 タンクローリーで運搬されてきた液体塩素を工場の貯蔵タンクに受け入れる作業に従事中の未熟練技術員が単独で受入れバルブを閉めようとし、一緒に受入れ作業に従事中の熟練技術員がこれを了承したため、未熟練技術員が誤つてパージバルブを開け、大量の塩素ガスを大気中に放出させて付近住民等に傷害を負わせた事故については、未熟練技術員を配置した製造課長と班の責任者にも、事前に双方の技術員に対し、未熟練技術員が単独でバルブ操作をしないよう留意すべき旨の安全教育を行い、少なくとも配置の際にその旨の指示を行うべき注意義務を怠つて、未熟練技術員を配置した過失があり、業務上過失傷害罪が成立する。
一 人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律三条一項にいう「工場又は事業場における事業活動に伴つて人の健康を害する物質を排出し」の意義 二 人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律三条の罪が成立しないとされた事例 三 工場において原料の液体塩素の受入れ作業に従事していた未熟練技術員が過失により塩素ガスを放出させて起した事故につき右技術員を受入れ担当の班に配置した製造課長と班の責任者にも業務上過失傷害罪が成立するとされた事例
刑法211条,人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律3条
判旨
公害罪法3条1項の「排出」とは、事業活動の一環として行われる廃棄物等の排出過程で、物質が管理されない状態で外部に出されることを指し、過失による偶発的な流出はこれに含まれない。また、上司の過失については、適切な安全教育や指示を行っていれば部下が遵守すると信頼するのが相当であり、特段の事情がない限り、現場の監視や事故後の特定措置までの義務を負わない。
問題の所在(論点)
1. 公害罪法3条1項の「排出」の意義および、本件のような偶発的な事故に同法が適用されるか。 2. 未熟練の部下を危険な作業に配置した上司において、安全教育・指示以外に、現場の巡回監視や事故直後の特定の点検措置を講ずべき注意義務まで負うか。
事件番号: 昭和55(あ)2014 / 裁判年月日: 昭和62年9月22日 / 結論: その他
一 人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律三条一項にいう「工場又は事業場における事業活動に伴つて人の健康を害する物質を排出し」とは、工場又は事業場における事業活動の一環として行われる廃棄物その他の物質の排出の過程で、人の健康を害する物質を工場又は事業場の外に何人にも管理されない状態において出すことをいい、事業活動の一…
規範
1. 公害罪法3条1項の「排出」とは、事業活動の一環として行われる廃棄物その他の物質の排出過程において、人の健康を害する物質を工場等の外に何人にも管理されない状態で出すことをいい、他の事業活動中に過失によりたまたま放出させた場合は含まれない。 2. 業務上過失致死傷罪における上司の注意義務に関し、部下に対し安全教育や指示を徹底していれば、通常は部下がこれを遵守することを信頼してよく、特段の事情がない限り、現場を巡回監視する義務や、事故発生直後に一義的な正解のない特定の措置を講ずべき義務までを負うものではない(信頼の原則)。
重要事実
被告会社Aの従業員D(新人)は、液体塩素の受入れ作業中、指導担当Cの承諾を得てバルブを操作したが、知識不足からパージバルブを誤開放し、塩素ガスを大気中に放出させて付近住民らに傷害を負わせた。工場の製造課長Aおよび係員Bは、Dを同作業に配置する際、熟練者の指導なしに単独で操作してはならない旨の安全教育や指示を怠っていた。また、ガス漏出後、A・Bは中和剤投入等の除害作業に注力したが、バルブの点検が遅れたため漏出停止まで時間を要した。
あてはめ
1. 本件事故は原料の受入れという事業活動の過程で発生した偶発的な事故であり、事業活動の一環たる廃棄物等の「排出過程」で生じたものではないため、公害罪法3条の「排出」には当たらない。 2. A・Bは、危険な作業に未熟練のDを配置する際、単独操作を禁ずる安全教育や注意を怠った点に過失が認められる。しかし、教育や指示を行えば部下が遵守すると信頼するのが相当であり、巡回監視まで求めるのは過大な義務である。また、事故後の対応も当時の判断として不適切とはいえず、事後的な判断に基づきバルブ点検の遅れを過失と解することもできない。
結論
被告会社については、公害罪法が適用されないため無罪。被告人A、Bら個人については、安全教育・指示を怠った点において業務上過失傷害罪が成立する。
実務上の射程
公害罪法の適用範囲を「事業活動の一環としての排出過程」に限定し、偶発的な事故を除外した。また、過失犯における管理監督者の注意義務について、安全教育・指示を尽くせば部下の行動を信頼してよいという「信頼の原則」を適用し、過大な監視義務や結果論的な事後措置義務を否定する基準として重要である。
事件番号: 昭和30(あ)2753 / 裁判年月日: 昭和33年4月18日 / 結論: 棄却
一 業務上必要な注意を怠り因つて人を死に致した以上、被害者が死亡するのに至つた原因につき、被害者側にも過失があつたからといつて、その刑責を免れ得るものではない 二 人家の建ち並ぶ巾五米の道路上を宣伝車が拡声器をつけて音楽を奏でつつ、人の歩行する程度の速度で進行していた場合には、その後部に数人の児童が取り付きまたはこれに…
事件番号: 昭和37(あ)1539 / 裁判年月日: 昭和40年5月27日 / 結論: 破棄差戻
法人が、その事業につき、建設用鋲打銃を使用して火薬類である空包を消費するにあたり、危険予防の方法として特定の者を取扱者と定め、その他の者には取扱わせないことを条件として旧火薬類取締法(昭和三五年法律第一四〇号による改正前のもの)第二五条第一項の消費許可を受けた場合において、右取扱者以外の従業者が取扱者の不在中独断で、右…