狭隘な道路を進行する大型貨物自動車の運転者としては、前方を走行中の自転車が自車の警笛に応じて道路端に避譲して走行した場合であつても、その自転車はブロツク塀に接する安全走行に適しない有蓋側溝上を走行しており、運転者が老齢であつたなどの本件状況(判文参照)の下においては、自転車転倒の危険を予測して追抜きを差し控えるべき業務上の注意義務がある。
大型貨物自動車の運転者につき自車を避譲して走行中の自転車の追抜きを差し控えるべき注意義務があるとされた事例
刑法211条
判旨
大型貨物自動車が狭隘な道路で自転車を追い抜く際、自転車側が避譲の動作を示していたとしても、道路状況や相手方の属性(高齢者等)から転倒・事故の危険が具体的に予測される場合には、追い抜き自体を差し控えるべき業務上の注意義務を負う。
問題の所在(論点)
刑法211条前段の業務上過失致死傷罪における注意義務に関し、相手方(自転車)が避譲の動作を示している場合に、なお追い抜きを中止すべき義務が認められるか。
規範
業務上の注意義務は、結果発生の予見可能性を前提として、その回避のために客観的に求められる措置を尽くすべき義務をいう。特段の事情がある場合には、信頼の原則は適用されず、相手方の不適切な行動や転倒等の危険を具体的に予測して事故を回避すべき義務(結果回避義務としての追い抜きの中止義務)が課される。
重要事実
大型貨物自動車を運転する被告人が、幅員4メートル弱の通行禁止道路を走行中、先行する72歳の老人が運転する自転車を追い抜こうとした。被告人が警笛を鳴らしたところ、被害者は左側の有蓋側溝上に避譲した。当該側溝は蓋の間に隙間や高低差があり、自転車の安全走行に適さない状況であった。また、側溝のすぐ横にはブロック塀があり、退避スペースも極めて狭隘であった。被告人は約60〜70センチの間隔を空けて徐行しつつ並進したが、被害者がバランスを崩して転倒し、自車の後輪で轢圧した。
あてはめ
まず、被害者が走行していた有蓋側溝は隙間や高低差があり、自転車が走行の安定を失いやすい路面状況であった。次に、道路は幅員4メートル弱と極めて狭く、側溝の側にはブロック塀が迫っており、自転車の回避余地が乏しかった。さらに、被害者は72歳の老人であり、通常の人よりも自転車走行の安定を欠く可能性が高い。このような状況下では、たとえ被告人の警笛に応じて被害者が避譲の動作を見せたとしても、追い抜く際に被害者が転倒して事故に至る危険は客観的に大きいといえる。したがって、大型貨物自動車の運転者である被告人には、単に間隔を空けて徐行するだけでは足りず、事故発生の危険を予見して追い抜き自体を差し控えるべき義務があったと解される。
結論
被告人は、追い抜きを差し控えるべき業務上の注意義務を怠ったものとして、業務上過失致死傷罪の成立を免れない。
実務上の射程
狭隘な道路、悪路、高齢者といった「事故の具体的危険を高める事情」が重なる事案において、徐行や並進での注視だけでは回避措置として不十分であり、追い抜きの中止(不作為)が義務付けられる基準を示した。
事件番号: 昭和29(あ)3300 / 裁判年月日: 昭和32年2月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自動車運転者が前方に避譲困難な状況を予見し得た場合、警音を発して注意を喚起し、急停車または徐行等の措置を講じて事故を回避すべき業務上の注意義務を負う。 第1 事案の概要:被告人は自動車を運転中、約32メートル前方から自転車で坂を下降してくるAを認めた。Aがそのまま進行すれば事故に至るおそれがあった…
事件番号: 昭和41(あ)2622 / 裁判年月日: 昭和42年3月16日 / 結論: 棄却
対向車が被告人の運転する車両の進路である道路の左側部分を通り容易に右側に転じないような特殊な場合には、被告人が交通法規に従つてそのまま進行すれば対向車と衝突し、死傷の結果を生ずることが予見できるのであるから、自動車運転車としては、まさに警音器を吹鳴して対向車に避譲を促すとともに、すれ違つても安全なように減速して道路左端…