非行事実の認定に関する証拠調べの範囲、限度、方法の決定は、家庭裁判所の完全な自由裁量に属するものではなく、その合理的な裁量に委ねられたものである。
非行事実の認定に関する証拠調べの範囲、限度、方法の決定と家庭裁判所の裁量
少年法8条,少年法14条,少年審判規則19条
判旨
少年保護事件における非行事実の認定は、裁判所の完全な自由裁量ではなく、少年の人権に対する手続上の配慮を欠かさない合理的裁量に委ねられたものである。保護処分が自由の制限を伴う以上、憲法31条の適正手続の趣旨が及び、重要な証拠については実質的な反対尋問の機会等の保障が必要とされる。
問題の所在(論点)
少年保護事件において、非行事実の認定に関する証拠調べの方式(参考人取調べか証人尋問か)や、少年・附添人に対する立会い・反対尋問の機会の付与は、裁判所の裁量にどのように委ねられているか。憲法31条の適正手続の観点から、その裁量の限界が問題となる。
規範
少年保護事件の非行事実認定に関する証拠調べの範囲・限度・方法の決定は、家庭裁判所の完全な自由裁量ではなく、少年法及び少年審判規則の趣旨に基づく「合理的な裁量」に委ねられている。保護処分は少年の自由を制限し、権利に及ぶものであるから、憲法31条の適正手続の趣旨が推及されるべきであり、非行事実の存否に重要な影響を及ぼす証拠については、少年や附添人に対し、実質的に十分な立会いおよび反対尋問の機会を与えることが要請される。
重要事実
少年は、高校校舎への器物損壊(第一事実、自白あり)および放火未遂(第二事実、否認)の非行事実で送致された。原原審は、第二事実について、唯一の直接証拠である重要目撃者2名(女子生徒)の証言について、報復の恐れがある等の保護者の申入れを受け、少年や弁護士たる附添人に立会いや反対尋問の機会を与えないまま、審判廷外での参考人取調べとして実施した。これを基に非行事実を認定し、保護観察処分を下したため、少年側が手続の違法を訴えて抗告した。
事件番号: 昭和60(し)109 / 裁判年月日: 昭和60年10月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】少年事件の自白の任意性については、刑事訴訟の原則に準じて判断されるべきであり、任意性が認められる限り、憲法38条2項に違反しない。 第1 事案の概要:少年Aおよび少年Bが関与した保護事件において、附添人は自白の任意性を争い、原審の判断が憲法31条、37条2項、38条等に違反すると主張して再抗告した…
あてはめ
放火未遂(第二事実)については、少年の自白や共犯者の供述に変転があり、客観的な物証も存在しないため、目撃者の供述の信用性が認定の鍵を握る決定的な証拠であった。目撃者の特定過程にも疑問の余地があり、反対尋問によって信用性を争わせる必要性は極めて高い。目撃者の心理的負担への配慮は理解できるものの、重要な証拠について反対尋問の機会を全く与えないことは、少年法1条の基本理念や憲法31条・37条2項の趣旨を没却するものであり、裁判所の合理的な裁量の範囲を逸脱していると判断される。
結論
原原審の証拠調べ手続には裁量権の逸脱があるが、少年が認めている第一事実(器物損壊)のみでも保護観察処分は相当であり、結論において正義に反するとまではいえないため、抗告は棄却される。
実務上の射程
少年の要保護性を重視する立場からは裁量が広く解されがちだが、非行事実の存否が争われる「否認事件」において、決定的な証拠(目撃証言等)の信用性を争うための反対尋問権を奪うことは、裁量権の逸脱・濫用となることを示した。答案上は、少年審判における適正手続の要請(憲法31条の推及)と、事実認定における合理的裁量の限界を論じる際の規範として活用できる。
事件番号: 平成17(し)23 / 裁判年月日: 平成17年3月30日 / 結論: 棄却
1 少年保護事件の抗告裁判所による非行事実の認定に関する事実の取調べは,少年保護事件の抗告審としての性質を踏まえ,合理的な裁量により行われるべきである。 2 少年保護事件につき検察官のした抗告受理の申立てに基づく抗告審において,非行事実の認定に関し,家庭裁判所が検討していなかった共犯者のアリバイ供述等の信用性を検討しな…
事件番号: 昭和26(し)78 / 裁判年月日: 昭和26年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】少年法35条1項の再抗告は、同条に規定された憲法違反または憲法解釈の誤り等の事由を理由とする場合に限り許容され、単なる事実誤認や処分の不当を主張するものは不適法である。 第1 事案の概要:申立人は窃盗等の非行事実により中等少年院送致の保護処分を受けた。これに対し申立人は、(1)家からの持ち出し窃盗…
事件番号: 昭和54(し)107 / 裁判年月日: 昭和54年12月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保護処分の決定に対する抗告の申立書の記載方式や抗告期間の定めは、専ら立法政策の問題であり、これらを定める少年審判規則が憲法14条、31条、32条に違反することはない。 第1 事案の概要:少年による保護処分決定に対する抗告手続において、抗告人が少年審判規則43条2項(抗告の申立理由の記載等)等の規定…
事件番号: 平成9(し)240 / 裁判年月日: 平成10年4月21日 / 結論: 棄却
少年が非行事実の存在を争っている保護事件において、家庭裁判所がその争点について少年法一六条に基づき捜査機関に援助協力を依頼して回答を得ながら、右回答の存在を附添人に了知させなかった措置は、妥当性を欠いたものであるが、右回答は附添人らがその内容を了知していた捜査書類を要約したものなどであって、証拠全体の中で重要な位置を占…