弁護士からその業務にとつて重要な書類が在中する鞄を奪取して隠匿する行為は、刑法二三四条にいう「威力ヲ用ヒ」た場合にあたる。
弁護士の業務用鞄の奪取隠匿行為が刑法二三四条にいう「威力ヲ用ヒ」た場合にあたるとされた事例
刑法234条,軽犯罪法1条31号
判旨
弁護士が携行する訟廷日誌や訴訟記録入りの鞄を奪取し隠匿する行為は、被害者の意思を制圧するに足りる勢力を用いたものとして、刑法234条の「威力」にあたる。
問題の所在(論点)
物理的行使を伴う財物の奪取・隠匿行為が、威力業務妨害罪(刑法234条)における「威力」に該当するか。
規範
刑法234条の「威力」とは、人の自由意思を制圧するに足りる勢力(態様を問わず、公然・非公然も問わない)を使用することをいう。
重要事実
被告人は、弁護士である被害者が勤務する弁護士事務所において、被害者が携行していた訟廷日誌や訴訟記録等が入った鞄を奪い取り、これを2か月余りにわたって自宅に隠匿した。この結果、被害者の弁護士活動を困難にさせた。
あてはめ
本件における訟廷日誌や訴訟記録は、弁護士業務にとって極めて重要な書類である。これらが在中する鞄を奪取し、長期間にわたり隠匿する行為は、被害者が業務を遂行しようとする自由な意思を制圧し、その継続を困難にさせるに足りる勢力を用いたものといえる。したがって、かかる行為は「威力」を用いたものと解される。
結論
被告人の行為は威力業務妨害罪を構成する。第一審判決を是認した原判決は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
物理的な有形力の行使が直接「人」に向けられていない場合(対物的な妨害等)であっても、その業務の重要性を鑑みて精神的・実質的に意思を制圧し得るものであれば「威力」に含まれることを示す。器物損壊罪や窃盗罪等の側面を持つ行為であっても、業務妨害の観点から本罪の成立を肯定する際の有力な根拠となる。
事件番号: 昭和35(あ)348 / 裁判年月日: 昭和37年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】威力業務妨害罪(刑法234条)における「威力」とは、犯人の威勢、人数、四囲の状況等からみて、被害者の自由意思を制圧するに足りる勢力を示すことをいい、暴行・脅迫に至らない程度の無形的な力も含まれる。 第1 事案の概要:本件事案の具体的な事実は本決定文の記載からは不明であるが、第一審および原判決は、被…
事件番号: 昭和37(あ)426 / 裁判年月日: 昭和38年12月26日 / 結論: 棄却
刑法第二三四条の「威力」とは、犯人の威勢、人数および四囲の状勢よりみて、被害者の自由意思を制圧するに足る犯人側の勢力と解する相当とし、かつ右勢力は客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足るものであればよいのであつて、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要するものではないと解すべきである(昭和二五年(れ)第一八六四…