被害者の事務机引き出し内に赤く染めた猫の死がいを入れておくなどして、被害者にこれを発見させ、畏怖させるに足りる状態においた一連の行為(判文参照)は、刑法二三四条にいう「威力ヲ用ヒ」た場合に当たる。
猫の死がいを被害者の事務机引き出し内に入れておき同人に発見させるなどした行為が刑法二三四条にいう「威力ヲ用ヒ」た場合に当たるとされた事例
刑法234条,軽犯罪法1条31号
判旨
被害者が執務に際して目にすることが予想される場所に猫の死がい等を隠匿し、これを発見させて畏怖させる行為は、被害者の行為を利用する形態でその意思を制圧する勢力を用いたものとして、刑法234条の「威力」に該当する。
問題の所在(論点)
被害者に直接対面することなく、不快物や死がいを隠匿して発見させる行為が、刑法234条の「威力」を用いたといえるか。特に、被害者自身の発見という行為を介在させる形態が「威力」に該当するかが問題となる。
規範
刑法234条の「威力」とは、犯人の威信、勢力、人数および周囲の状況などから見て、被害者の自由意思を制圧するに足りる勢力を示すことをいう。直接的に暴行・脅迫を加える場合に限られず、被害者の行為を利用する形態でその意思を制圧するような勢力を用いることもこれに含まれる。
重要事実
被告人は、消防署職員と共謀し、消防長室のロッカー内に犬のふんを、事務机の引き出し内に赤く染めた猫の死がいを隠匿した。翌朝、執務のため入室した消防長にこれらを順次発見させ、恐怖感や嫌悪感を抱かせて畏怖させた。その結果、予定されていた部下からの報告受理や決裁事務等の執務を不可能にさせた。
あてはめ
本件において、被害者が執務に際して必ず目にすることが予想されるロッカーや机の引き出しに猫の死がい等を置く行為は、被害者がそれを発見することを確実に見込んだものである。これを発見した被害者が強い恐怖感や嫌悪感から畏怖し、執務不能に陥ることは客観的に予見可能であり、被害者自身の「発見」という行為を利用してその自由意思を制圧したものと評価できる。したがって、心理的な勢力を用いて業務を妨害するに足りる状態を現出させたといえる。
結論
被告人の行為は、被害者の意思を制圧するような勢力を用いたものとして「威力」に該当し、威力業務妨害罪が成立する。
実務上の射程
物理的な破壊活動や直接的な罵倒だけでなく、嫌がらせ的な不快物の設置であっても、被害者の行動を介して精神的自由を制圧するものであれば「威力」に含まれることを明示した。答案上は、非対面型の妨害行為について「威力の該当性」を検討する際の重要な根拠となる。
事件番号: 昭和57(あ)987 / 裁判年月日: 昭和59年3月23日 / 結論: 棄却
弁護士からその業務にとつて重要な書類が在中する鞄を奪取して隠匿する行為は、刑法二三四条にいう「威力ヲ用ヒ」た場合にあたる。
事件番号: 平成10(あ)1491 / 裁判年月日: 平成14年9月30日 / 結論: 棄却
1 東京都が都道である通路に動く歩道を設置するため,通路上に起居する路上生活者に対して自主的に退去するよう説得して退去させた後,通路上に残された段ボール小屋等を撤去することなどを内容とする環境整備工事は,自主的に退去しなかった路上生活者が警察官によって排除,連行された後,その意思に反して段ボール小屋を撤去した場合であっ…
事件番号: 昭和59(あ)627 / 裁判年月日: 昭和62年3月12日 / 結論: 棄却
県議会委員会の条例案採決等の事務は、威力業務妨害罪にいう[業務]に当たる。