一 所得税法二四四条一項にいう「使用人その他の従業者」は、所得の計算や所得税確定申告書の作成などの申告納税に関する事務を担当する従業者に限定されない。 二 所得税法二四四条一項所定の従業者の身分のない者が従業者と共謀して所得税ほ脱の違反行為に加功した場合、その身分のない者には、刑法(平成七年法律第九一号による改正前のもの)六五条一項の適用により所得税ほ脱の共同正犯が成立する。
一 申告納税に関する事務を担当していない従業者と所得税法二四四条一項にいう「使用人その他の従業者」 二 所得税法二四四条一項所定の従業者の身分のない者が従業者と共謀して所得税ほ脱の違反行為に加功した場合における所得税ほ脱の共同正犯の成否
所得税法238条1項,所得税法244条1項,刑法(平成7年法律第91号による改正前のもの)65条1項
判旨
所得税法上の両罰規定における「使用人その他の従業者」は申告納税事務の担当者に限定されず、事業主は従業者の違反行為につき事業主としての過失責任に基づき処罰される。また、非身分者であっても従業者と共謀した場合は、刑法65条1項によりほ脱犯の共同正犯が成立する。
問題の所在(論点)
1. 両罰規定(所得税法244条1項)の対象となる「従業者」は申告事務担当者に限定されるか。 2. 従業者の身分を持たない者が、従業者と共謀してほ脱行為を行った場合に、ほ脱犯の共同正犯が成立するか。
規範
1. 所得税法244条1項(両罰規定)にいう「使用人その他の従業者」とは、所得の計算や確定申告書の作成等の申告納税事務を担当する者に限定されない。 2. 事業主は、これら従業者の違反行為に対し、事業主としての過失責任を負う。 3. 身分なき者(非従業者)であっても、身分者(従業者)の違反行為に加功した場合には、刑法65条1項(改正前)の適用により、ほ脱犯の共同正犯が成立する。
重要事実
被告人Aは美容整形外科を経営する医師、被告人Bはその実母である。Bは、Aが経営する診療所の窓口事務責任者であったCおよびD(Aの従業者)と共謀し、診療収入を日計表等に記載させずに隠匿する所得秘匿工作を指示した。その上で、事情を知らない経理事務員や税理士を介して虚偽の所得税確定申告書を提出させ、Aの所得税を免れさせた。
あてはめ
1. 本件のCおよびDは診療所の窓口事務責任者として診察料の集計・管理等を行っており、申告事務そのものの担当者ではないが、広義の「従業者」に含まれる。 2. 事業主Aは、これら従業者の行為について事業主としての過失責任を負うため、両罰規定の適用を受ける。 3. 被告人BはAの従業者ではないが、正犯たる従業者C・Dと共謀してほ脱という違反行為に加功したため、刑法65条1項により共同正犯としての責任を免れない。
結論
被告人Aには両罰規定によるほ脱犯が、被告人Bには刑法65条1項適用によるほ脱犯の共同正犯がそれぞれ成立する。
実務上の射程
行政刑法における両罰規定の解釈と、身分犯(真正身分犯)における非身分者の共犯関係(刑法65条1項)の適用範囲を画定する際の規範となる。特に「従業者」を広く解し、かつ非身分者への波及を認めている点に注意が必要である。
事件番号: 昭和36(あ)2179 / 裁判年月日: 昭和39年3月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】両罰規定により事業主たる個人が処罰される根拠は事業主の過失責任にあり、同規定は選任・監督上の過失を推定したものと解される。したがって、従業者の違反事実に基づき事業主の過失を推定して処罰することは、憲法31条や刑事訴訟法317条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人Aの従業者である被告人Bが、業務…
事件番号: 平成19(あ)2014 / 裁判年月日: 平成23年1月26日 / 結論: 棄却
1 会社の代表取締役から実質的に経理担当の取締役に相当する権限を与えられ,会社の決算・確定申告の業務等を統括していた者は,会社から報酬を受けることも日常的に出社することもなかったとしても,法人税法(平成19年法律第6号による改正前のもの)164条1項にいう「その他の従業者」に当たる。 2 法人税ほ脱犯において,行為者が…