売上げを正確に記載した帳簿を作成しており、これをことさら税務当局から隠匿したり、別に虚偽の帳簿を作成したりするなどの工作を積極的に行っていない場合であっても、売上金の一部を仮名又は借名の預金口座に入金保管することは、ほ脱の意思に出たものと認められる以上、不申告ほ脱犯の所得秘匿工作に当たる。
売上げを正確に記載した帳簿を作成している場合に売上金の一部を仮名又は借名の預金口座に入金保管することと不申告ほ脱犯の所得秘匿工作
所得税法238条1項
判旨
所得税法上のほ脱罪における「偽りその他不正の行為」とは、単なる不申告にとどまらず、仮名口座への売上入金等の所得秘匿工作を伴う不申告行為を指し、ほ脱の意思に基づくものである限り、積極的な帳簿隠匿や虚偽記載がなくとも成立する。
問題の所在(論点)
単なる不申告(所得税法241条)を超えて、ほ脱罪(同法238条1項)が成立するためには、帳簿の隠匿や虚偽記載といった積極的な偽装工作が必要か。仮名口座への売上入金と不申告の組み合わせが「偽りその他不正の行為」に該当するかが問題となる。
規範
所得税法238条1項の「偽りその他不正の行為」とは、税の徴収を免れる意図(ほ脱の意思)に基づき、税務当局による所得の把握を困難にさせる所得秘匿工作を行うことをいう。積極的な帳簿の隠匿や虚偽帳簿の作成という手段に限られず、客観的に所得の把握を困難にする行為がなされ、それがほ脱の意思に基づくものであれば、不申告と相まって同罪を構成する。
重要事実
麻雀店3店を経営する被告人が、ほ脱の意思の下、各店長に正確な売上帳簿を作成させていたものの、売上金の一部をあらかじめ設けておいた仮名または借名の預金口座に入れて保管し、事業所得等の確定申告を行わなかった。被告人は、当該帳簿をことさら税務当局から隠匿したり、虚偽の帳簿を別途作成したりするなどの積極的な工作は行っていなかった。
あてはめ
被告人は、正確な帳簿を作成していたとはいえ、売上金の一部を仮名・借名口座に分散・保管している。税務当局が調査において当該帳簿の内容を確実に把握できる保障はなく、このような行為は税務当局による所得の把握を困難にさせる「所得秘匿工作」に当たると評価できる。本件では、被告人にほ脱の意思が認められる以上、積極的な帳簿隠匿等がなくとも、所得秘匿工作を伴う不申告行為として「偽りその他不正の行為」に該当すると判断される。
結論
被告人の行為は所得税法238条1項のほ脱罪を構成する。したがって、単純不申告罪のみが成立するとする弁護人の主張は退けられる。
実務上の射程
租税法・刑法における「偽りその他不正の行為」の意義を明確化した判例である。積極的な「作為」による虚偽記載等がない場合であっても、仮名口座の利用という所得秘匿に資する外形的状況とほ脱の意思が合致すれば、不申告と相まって「不正の行為」と認定される点に実務上の射程がある。
事件番号: 昭和33(あ)1569 / 裁判年月日: 昭和38年2月12日 / 結論: その他
所得税逋脱の意思による場合であつても、単に確定申告書を提出しなかつただけでは、所得税法第六九条第一項の罪(所得税逋脱罪)は成立しない。