道路交通法六七条二項の規定による警察官の呼気検査を拒んだ者を処罰する同法一二〇条一項一一号の規定は、憲法三八条一項に違反しない。
呼気検査を拒んだ者を処罰する道路交通法一二〇条一項一一号と憲法三八条一項
憲法38条1項,道路交通法67条2項,道路交通法120条1項11号
判旨
道路交通法に基づく警察官の呼気検査を拒んだ者を処罰する規定は、供述を強要するものではないため、憲法38条1項に違反しない。
問題の所在(論点)
道路交通法上の呼気検査拒否罪を規定する同法120条1項11号が、自己に不利益な供述を強要するものとして憲法38条1項に違反するか。
規範
憲法38条1項は、刑事上の責任を問われるおそれのある事項について「供述」を強要されないことを保障するものである。したがって、特定の身体的状態や物件を調査するものであって、自己の思考や記憶の内容を言葉等で表現させる「供述」を求めるものでない場合には、同項の保障の対象外となる。
重要事実
被告人は、警察官による道路交通法67条2項の規定に基づく呼気検査を拒否した。同法120条1項11号は、この検査を拒んだ者を処罰すると規定しており、被告人は当該処罰規定が憲法38条1項(自己負罪拒否特権)に違反すると主張した。
事件番号: 昭和50(あ)2128 / 裁判年月日: 昭和51年1月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段に基づく事故報告義務は、刑事責任を問われるおそれのある事項の報告までを強制するものではないため、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に抵触しない。 第1 事案の概要:上告人は、交通事故を起こした際に、道路交通法72条1項後段の規定に基づき警察官等に事故の状況を報告すべき義務を怠…
あてはめ
呼気検査は、酒気を帯びた状態での車両運転を防止する目的で行われるものであり、運転者等の体内から呼気を採取してアルコール保有の程度という身体的状態を客観的に調査するものである。これは、対象者の意思表示や思考内容を外部に表出させる、いわゆる「供述」を得ようとする手続ではない。したがって、呼気検査に応じる義務を課し、これに背く者を処罰することは、憲法38条1項が禁じる「供述の強要」には当たらないと評価される。
結論
道路交通法120条1項11号は、憲法38条1項に違反しない。
実務上の射程
自己負罪拒否特権の対象を「供述(コミュニケーション的表現)」に限定する確立した判例法理であり、血液採取(採血)や身体検査など、非供述証拠の収集を目的とする強制処分や義務付けの合憲性を検討する際の一般的な判断基準として機能する。
事件番号: 昭和45(あ)2397 / 裁判年月日: 昭和46年3月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段に規定する報告義務は、憲法38条1項が保障する自己に不利益な供述の強要禁止に違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、道路交通法72条1項後段に基づく事故報告義務が、憲法38条1項に違反するとして上告した。原判決が同義務違反を認定したことに対し、自己に不利益な事実の報告を強…
事件番号: 昭和49(あ)2739 / 裁判年月日: 昭和50年4月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段に規定される交通事故の報告義務は、憲法38条1項の自己に不利益な供述を強要されない権利に違反しない。 第1 事案の概要:上告人は、交通事故を起こした際に道路交通法72条1項後段に基づく事故報告を行わなかった。これに対し、当該報告義務の規定が憲法38条1項(自己負罪拒否特権)…
事件番号: 昭和54(あ)1199 / 裁判年月日: 昭和54年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段が定める交通事故発生時の報告義務は、憲法38条1項の自己負罪拒否特権に違反しない。当該義務は、交通事故における適切な処置の確保という行政上の目的のために課されるものであり、刑事責任を追及するためのものではないからである。 第1 事案の概要:被告人が交通事故を起こした際、道路…
事件番号: 昭和51(あ)882 / 裁判年月日: 昭和51年7月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項後段及び119条1項10号の規定は、憲法38条1項に違反しない。交通事故における警察官等への報告義務は、自己に不利益な供述を強要するものではないとする判例の趣旨が改めて確認された。 第1 事案の概要:被告人は道路交通法違反等に問われ、同法72条1項後段(警察官等への報告義務)及…