一 退去強制によって出国した者の検察官に対する供述調書については、検察官において供述者がいずれ国外に退去させられ公判準備又は公判期日に供述することができなくなることを認識しながら殊更そのような事態を利用しようとした場合や、裁判官又は裁判所がその供述者について証人尋問の決定をしているにもかかわらず強制送還が行われた場合など、その供述調書を刑訴法三二一条一項二号前段書面として証拠請求することが手続的正義の観点から公正さを欠くと認められるときは、これを事実認定の証拠とすることが許容されないこともある。 二 検察官において本件供述者が強制送還され将来公判準備又は公判期日に供述することができなくなるような事態を殊更利用しようとしたとは認められず、本件に関連して同時期に強制送還された他の供述者については証拠保全としての証人尋問が行われており、本件供述者のうち、証拠保全請求があった一名については請求時に既に強制送還されており、その余の者については証拠保全の請求がないまま強制送還が行われたなどの判示の事実関係の下においては、本件供述者の検察官面前調書を証拠請求することが手続的正義の観点から公正さを欠くとは認められず、これを事実認定の証拠とすることは許容される。 (一につき補足意見がある)
一 退去強制によって出国した者の検察官に対する供述調書の証拠能力 二 退去強制によって出国した者の検察官に対する供述調書について証拠能力が認められた事例
刑訴法1条,刑訴法320条1項,刑訴法321条1項2号,憲法37条2項
判旨
検察官面前調書の供述者が国外にいる場合でも、検察官がその事態を殊更利用したり、証人尋問決定を無視して強制送還を行ったりするなど、証拠請求が手続的正義の観点から公正さを欠くときは、刑訴法321条1項2号前段による証拠能力は認められない。
問題の所在(論点)
供述者が国の行政処分(退去強制)によって国外にいる場合に、検察官面前調書に刑訴法321条1項2号前段の証拠能力を認めることが、手続的正義および被告人の証人審問権(憲法37条2項)の観点から許されるか。
規範
刑訴法321条1項2号前段は伝聞例外を定めるが、憲法37条2項の証人審問権保障の趣旨に照らせば、同条項による証拠能力付与は無制約ではない。具体的には、①検察官が、供述者が国外に退去し公判供述不能となることを認識しながら殊更そのような事態を利用しようとした場合や、②裁判所による証人尋問決定があるにもかかわらず強制送還が行われた場合など、検察官面前調書を証拠請求することが「手続的正義の観点から公正さを欠く」と認められるときは、同条項の要件を満たしても証拠能力は否定される。
重要事実
被告人らの下で就労していたタイ国女性13名は、入国管理局に収容中に検察官の取り調べを受け、その供述を録取した調書(本件検面調書)が作成された。その後、女性らはタイ国に強制送還されたため、第1審において刑訴法321条1項2号前段の書面として証拠請求された。13名のうち1名については弁護人の証拠保全請求があったが請求時には既に送還済みであり、他の12名については証拠保全の請求がなされないまま強制送還されていた。
あてはめ
本件では、検察官が供述者の強制送還による公判供述不能という事態を「殊更利用しようとした」事実は認められない。また、13名の女性のうち、弁護人から証拠保全請求があった時点では既に送還済みであった者や、そもそも請求がなされていなかった者ばかりであり、裁判所による証人尋問決定に反して送還が強行されたという事情も存しない。したがって、本件検面調書を証拠請求することが手続的正義の観点から公正さを欠くとはいえず、同条項による証拠能力が認められる。
結論
本件検察官面前調書を刑訴法321条1項2号前段に該当するとして証拠採用した原判断は正当である。
実務上の射程
伝聞例外の形式的要件(供述不能)を満たす場合であっても、国家機関による供述不能状態の創出が「手続的不公正」と評価される場合には証拠能力が否定され得るという、信憑性以外の枠組み(排除法則的構成)を示した点に意義がある。答案上は、検察官の主観的意図や、弁護人による証拠保全の有無・時期、裁判所の決定状況を具体的に検討する際のメルクマールとなる。
事件番号: 昭和54(あ)673 / 裁判年月日: 昭和54年7月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈が許されないことにより証人審問権(憲法37条2項)の行使が事実上困難になったとしても、直ちに同条違反とはならず、自白の任意性が認められる限り憲法38条1項にも違反しない。 第1 事案の概要:被告人が刑事裁判において上告し、保釈が許されなかったために証人審問権を行使できなかったこと、および自白の…