捜査機関が収集し保管している証拠は,特段の事情が存しない限り,証拠保全手続の対象にならない。
捜査機関が収集し保管している証拠を証拠保全手続の対象とすることの可否
刑訴法179条
判旨
捜査機関が既に収集・保管している証拠については、特段の事情がない限り、刑事訴訟法179条に基づく証拠保全手続の対象とはならない。
問題の所在(論点)
捜査機関が既に収集し、保管している証拠について、刑事訴訟法179条の証拠保全手続の対象となるか。
規範
刑事訴訟法179条に基づく証拠保全手続は、あらかじめ証拠を保全しておかなければその証拠を使用することが困難な事情がある場合に認められるものである。捜査機関が既に収集し保管している証拠については、国家機関による適正な管理下にあり、滅失や隠滅のおそれが通常認められないため、特段の事情がない限り、同条の対象とはならない。
重要事実
本件において、申立人は、捜査機関が既に収集し、現に保管している証拠物等について、刑事訴訟法179条1項に基づき証拠保全の請求を行った(具体的な証拠の内容や事案の詳細は判決文からは不明)。原審は、捜査機関保管の証拠は証拠保全の対象にならないとしてこれを却下したため、申立人が特別抗告を申し立てた。
事件番号: 昭和55(し)138 / 裁判年月日: 昭和55年11月18日 / 結論: 棄却
刑訴法一七九条に基づく押収の請求を却下する裁判は、同法四二九条一項二号にいう「押収に関する裁判」に含まれる。
あてはめ
証拠保全制度の趣旨は、証拠の散逸を防ぐ点にある。本件で対象とされた証拠は、既に捜査機関によって収集され、公的機関の管理下にある。このような証拠は、捜査機関において適切に保管されることが期待できるため、証拠が隠滅・滅失する「あらかじめ証拠を保全しておかなければならない事情」があるとはいえない。したがって、特段の事情(捜査機関による証拠隠滅の具体的蓋然性など)が示されない限り、同条の適用は否定される。
結論
捜査機関保管の証拠は、特段の事情がない限り証拠保全手続の対象とならない。本件抗告を棄却する。
実務上の射程
被告人・弁護人が捜査機関の保管する証拠を確認したい場合は、証拠保全手続ではなく、公判開始後の証拠開示手続(刑訴法299条、316条の14等)を通じて解決すべきであることを示唆している。答案上は、179条の「証拠を使用することが困難な事情」の解釈において、証拠の現在の保管状況を重視する文脈で使用する。
事件番号: 平成19(し)424 / 裁判年月日: 平成19年12月25日 / 結論: 棄却
1 刑訴法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となる証拠は,必ずしも検察官が現に保管している証拠に限られず,当該事件の捜査の過程で作成され,又は入手した書面等であって,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものを含む。 2 取調警察官が,犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録であって,取調べの…
事件番号: 平成14(し)235 / 裁判年月日: 平成14年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告事件の証拠調べ手続開始後であっても、受訴裁判所に捜索差押えを請求したのでは証拠が隠滅されるおそれがあるなどの例外的な場合には、捜査機関による捜索差押えも許容される。 第1 事案の概要:被告事件の第1審第12回公判期日(証拠調べ手続開始後)において、検察官の請求により裁判官が発付した捜索差押許可…
事件番号: 昭和48(し)78 / 裁判年月日: 昭和48年10月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】抗告の理由として違憲を主張する場合であっても、理由についての具体的な主張を欠き、抗告期間内にその補充もなされないときは、適法な抗告理由にあたらない。 第1 事案の概要:抗告人が本件抗告において憲法違反を主張したが、その理由についての具体的な主張を欠いていた。また、抗告期間内にその具体的な内容を補充…
事件番号: 平成4(し)114 / 裁判年月日: 平成4年12月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法82条2項但書は、刑事確定訴訟記録の閲覧を権利として要求できることまでを認めたものではない。したがって、閲覧の制限を定めた刑事確定訴訟記録法等の規定は同条に違反しない。 第1 事案の概要:抗告人が、刑事確定訴訟記録法4条2項及び刑事訴訟法53条3項に基づき刑事確定訴訟記録の閲覧を求めたが、認め…