1 刑訴法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となる証拠は,必ずしも検察官が現に保管している証拠に限られず,当該事件の捜査の過程で作成され,又は入手した書面等であって,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものを含む。 2 取調警察官が,犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録であって,取調べの経過その他参考となるべき事項が記録され,捜査機関において保管されている書面は,当該事件の公判審理において,当該取調べ状況に関する証拠調べが行われる場合には,刑訴法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となり得る。
1 刑訴法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となる証拠は,検察官が現に保管している証拠に限られるか 2 取調警察官が犯罪捜査規範13条に基づき作成した備忘録は,刑訴法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となり得るか
(1,2につき)刑訴法316条の15第1項,刑訴法316条の20第1項,刑訴法316条の26第1項 (2につき)犯罪捜査規範13条
判旨
公判前整理手続等における証拠開示命令の対象は、検察官が現に保管する証拠に限られず、捜査過程で作成・入手され公務員が職務上保管し検察官が入手容易なものも含む。警察官が犯罪捜査規範13条に基づき作成・保管する取調べ備忘録は、取調べ状況に関する証拠調べが行われる場合には証拠開示の対象となり得る。
問題の所在(論点)
検察官が現に保管している一件捜査記録以外の場所に存在する証拠(特に警察官が保管する取調べ備忘録等)について、裁判所は刑事訴訟法316条の26第1項に基づく証拠開示命令を発することができるか。
規範
1. 刑事訴訟法316条の26第1項の証拠開示命令の対象となる証拠は、検察官が現に保管しているものに限られない。当該事件の捜査過程で作成・入手された書面等のうち、公務員が職務上現に保管し、かつ検察官において入手が容易なものも含まれる。 2. 警察官が犯罪捜査規範13条に基づき作成した「備忘録」であって、取調べの経過等が記録され捜査機関において保管されているものは、個人的メモを超えた捜査関係の公文書に該当する。したがって、当該取調べ状況に関する証拠調べが行われる場合には、証拠開示の対象となり得る。
事件番号: 平成20(し)338 / 裁判年月日: 平成20年9月30日 / 結論: 棄却
警察官が私費で購入したノートに記載し,一時期自宅に持ち帰っていた本件取調べメモについて,同メモは,捜査の過程で作成され,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易な証拠であり,弁護人の主張(判文参照)と同メモの記載の間には一定の関連性が認められ,開示の必要性も肯認できないではなく,開示により特段の弊害が生…
重要事実
被告人は偽造通貨行使の罪で起訴され、公判期日において警察官による自白の強要や利益誘導があったとして供述調書の任意性を争った。弁護人は、警察官の取調メモ・備忘録等の開示を請求(法316条の20第1項)したが、検察官は「一件捜査記録中に存在せず、そもそも開示対象ではない」として拒絶。弁護人は開示命令を申し立てた(法316条の26第1項)。原審が検察官に存否の明示等を求めたが検察官が拒んだため、原審は取調メモ等の開示を命じる決定をした。
あてはめ
1. 証拠開示制度の趣旨は争点整理と証拠調べの効率化にある。取調べの適正さが争点となる本案において、取調べの経過を記録した備忘録は重要な関連性を有する。 2. 本件の備忘録等は、犯罪捜査規範13条という法的根拠に基づき作成・保管が義務付けられたものであり、専ら自己が使用する私的メモとは性質を異にする「捜査関係の公文書」といえる。 3. 警察官が保管するこれら書面は、検察官にとって入手容易な範囲にあり、実質的に「検察官の手持ち証拠」に準ずるものとして扱うべきである。
結論
検察官が保管する一件捜査記録以外の場所(警察等)に保管されている取調べ備忘録であっても、一定の要件を満たす限り証拠開示命令の対象となる。したがって、本件開示命令を維持した原決定は相当である。
実務上の射程
検察官の「手元にない」という抗弁を封じる強力な判例である。取調べの任意性や特信情況が争点となる事案において、警察段階のメモ(犯罪捜査規範13条の備忘録)の開示を求める際の決定的な根拠となる。ただし、あくまで「職務上作成・保管」されていることが要件であり、完全に私的な手控えまで無制限に対象とするものではない点に注意が必要である。
事件番号: 令和6(し)761 / 裁判年月日: 令和6年11月15日 / 結論: その他
弁護人からの証拠開示命令請求(刑訴法316条の26第1項)を棄却した決定の謄本が先に弁護人に送達され、その後に被告人本人に送達された場合において、弁護人が同決定に対して即時抗告をするときは、その提起期間は、同決定の謄本が被告人本人に送達された日から進行する。
事件番号: 平成27(し)556 / 裁判年月日: 平成27年11月19日 / 結論: 棄却
被告人が強姦等の犯行状況とされるものを撮影録画したデジタルビデオカセットについて,被告人の委託を受けて保管していた弁護士である弁護人により証拠請求がされ,更にその複製DVDが公判期日で被告人及び弁護人の異議なく取り調べられているなどの本件事実関係(判文参照)の下では,上記デジタルビデオカセットは,刑訴法105条の「他人…
事件番号: 昭和43(し)109 / 裁判年月日: 昭和44年4月25日 / 結論: その他
裁判所が、検察官申請証人の採用決定前に、同証人の反対尋問のため必要であるとの理由で、検察官に対し、その所持する当該証人の検察官に対する供述調書を弁護人に閲覧させることを命じた場合、特段の事情のないかぎり、その閲覧の時期を主尋問終了後反対尋問前と指定したとしても、その閲覧が被告人の防禦のため特に重要であるということはでき…
事件番号: 平成17(し)380 / 裁判年月日: 平成17年11月25日 / 結論: 棄却
捜査機関が収集し保管している証拠は,特段の事情が存しない限り,証拠保全手続の対象にならない。