医師が,治療の目的で救急患者の尿を採取して薬物検査をしたところ,覚せい剤反応があったため,その旨警察官に通報し,これを受けて警察官が上記尿を押収したなどの事実関係の下では(判文参照),警察官が上記尿を入手した過程に違法はない。
治療の目的で救急患者から尿を採取して薬物検査をした医師の通報を受けて警察官が押収した上記尿につきその入手過程に違法はないとされた事例
刑法134条1項,刑訴法218条1項,刑訴法239条,刑訴法317条
判旨
医師が救急患者の治療目的で承諾なく採尿・薬物検査を行うことは医療上の必要があれば適法であり、その結果を警察へ通報する行為も守秘義務に違反せず正当な行為として許容される。
問題の所在(論点)
1. 被告人の明示の拒絶がある中で行われた医師による採尿・検査が違法な捜査、あるいは違法な医療行為に当たるか。 2. 医師による薬物反応の通報が守秘義務違反となり、それに基づく差し押さえが違法収集証拠として排除されるか。
規範
1. 医師による無承諾の採尿・検査であっても、救急患者に対する治療目的であり、かつ医療上の必要性が認められる場合には、医療行為として適法である。 2. 医師が治療・検査過程で違法薬物成分を検出した場合、これを捜査機関に通報することは、刑法35条の正当行為として許容され、医師の守秘義務(刑法134条1項)に違反しない。
重要事実
被告人はナイフによる自傷で多量出血し病院へ搬送された。医師は腎損傷の有無を確認するため採尿検査を求めたが、被告人は強く拒絶。医師は止血のための縫合手術と麻酔、その際の採尿を説明し、被告人が拒絶しなかったため麻酔下で手術とカテーテル採尿を実施した。医師は被告人の興奮状態から薬物使用を疑い尿を検査したところ、覚せい剤反応が出たため警察へ通報。警察は後日、差押許可状を得て当該尿を差し押さえた。
あてはめ
1. 被告人は当初採尿を拒んでいたが、刺創が腎臓に達している可能性があり、急性期で画像診断のみでは出血を否定しきれない状況下では、診断確定のための採尿には「医療上の必要性」が認められる。したがって、無承諾であっても医療行為として適法である。 2. 医師が正当な医療行為の過程で偶然知得した違法薬物の存在を警察に通報することは、公共の利益に資する正当行為であり、守秘義務に優先する。ゆえに、警察の証拠入手過程に違法はない。
結論
医師の行為は適法な医療行為および正当行為であり、警察による尿の入手過程に違法はないため、当該尿に関する鑑定書等の証拠能力は肯定される。
実務上の射程
私人(医師)による証拠収集が、捜査機関との密接な連携(実質的な捜査補助者)がない限り、医療上の必要性があれば適法と判断される限界を示した。答案上は、違法収集証拠排除法則の文脈で「証拠収集過程の違法」を検討する際、医師の通報が守秘義務違反に当たらない根拠として本法理を用いる。
事件番号: 昭和54(あ)429 / 裁判年月日: 昭和55年10月23日 / 結論: 棄却
一 被疑者の体内から導尿管(カテーテル)を用いて強制的に尿を採取することは、捜査手続上の強制処分として絶対に許されないものではなく、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を…
事件番号: 平成19(あ)798 / 裁判年月日: 平成21年9月28日 / 結論: 棄却
荷送人の依頼に基づき宅配便業者の運送過程下にある荷物について,捜査機関が,捜査目的を達成するため,荷送人や荷受人の承諾を得ずに,これに外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察する行為は,検証としての性質を有する強制処分に当たり,検証許可状によることなくこれを行うことは違法である。
事件番号: 平成19(あ)88 / 裁判年月日: 平成19年6月19日 / 結論: 棄却
1 第1審の裁判官が,判決宣告期日として指定告知した日時に,検察官の出席がない法廷で,判決を宣告した上,被告人の退廷を許し,被告人が法廷外に出た後,勾留場所に戻った被告人を呼び戻して検察官出席の上再度行った判決の宣告は,法的な効果を有しない。 2 検察官の出席がないまま行われた第1審の判決宣告手続には,判決に影響を及ぼ…
事件番号: 昭和53(あ)1835 / 裁判年月日: 昭和54年4月6日 / 結論: 棄却
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