1 捜査機関による押収処分を受けた者は,刑訴法222条1項において準用する123条1項にいう「留置の必要がない」場合に当たることを理由として,当該捜査機関に対して押収物の還付を請求することができる。 2 捜査機関による押収処分を受けた者から,還付請求を却下した処分の取消しと自己への還付を求めて刑訴法430条2項の準抗告が申し立てられた場合において,押収物について留置の必要がないときは,申立人以外の者に還付することが相当である場合や,捜査機関に更に事実を調査させるなどして新たな処分をさせることが相当である場合を除き,準抗告裁判所は,原処分を取り消すとともに,捜査機関に対して押収物を申立人に還付するよう命ずる裁判をすべきである。
1 捜査機関による押収処分を受けた者の還付請求権の有無 2 押収物の還付請求却下処分に対する準抗告に理由がある場合に準抗告裁判所がすべき裁判
刑訴法123条1項,刑訴法222条1項,刑訴法426条2項,刑訴法430条2項,刑訴法432条
判旨
捜査機関に対し押収物の還付を請求できる地位を認め、準抗告裁判所は留置の必要がない場合、他者への還付が相当な等の特段の事情がない限り、原処分を取り消して申立人への還付を命ずるべきである。
問題の所在(論点)
刑訴法430条2項の準抗告において、裁判所は押収処分の取消しだけでなく、捜査機関に対して押収物を申立人に還付するよう命ずる裁判をすることができるか。
規範
1. 捜査機関による押収処分を受けた者は、刑訴法222条1項が準用する123条1項にいう「留置の必要がない」場合に当たるときは、当該捜査機関に対し押収物の還付を請求することができる。 2. 還付請求却下処分に対する準抗告(430条2項)が申し立てられた場合、留置の必要がなければ、準抗告裁判所は原則として、原処分を取り消すとともに捜査機関に対し、押収物を申立人に還付するよう命ずる裁判をすべきである。 3. ただし、124条1項による被害者への還付等、他者への還付が相当な場合や、捜査機関に更なる事実調査等をさせることが相当な場合はこの限りではない。
事件番号: 平成4(し)64 / 裁判年月日: 平成4年10月13日 / 結論: 棄却
差押処分が違法として取り消されたため、司法警察員が当該差押物を返還する行為は、刑訴法四三〇条二項の押収物の還付に関する処分には当たらず、これに対する準抗告の申立ては、不適法である。
重要事実
司法警察員は、被疑者不詳の漁業調整規則違反被疑事件に基づき、申立人所有の漁船等を差し押さえた。申立人が還付を申し立てたが却下されたため、準抗告を申し立てた。原決定は、物件の留置の必要性はないと判断して還付請求却下処分の「取消し」のみを認めたが、刑訴法430条2項は「押収処分の取消変更」を認めるにすぎず還付の裁判(命令)まではできないとして、申立人への還付を求める申立てを棄却した。
あてはめ
本件において、原決定は対象物件につき「留置の必要性がない」と既に判断している。また、記録上、被害者還付(124条1項)等の申立人以外の者に還付すべき特段の事情や、捜査機関に更に事実調査をさせる必要性も認められない。そうであれば、準抗告裁判所は単に還付請求却下処分を取り消すだけでなく、速やかに権利回復を図るため、捜査機関に対して直接、申立人への還付を命ずるのが相当である。
結論
準抗告裁判所は、捜査機関に対し押収物を申立人に還付するよう命ずることができる。したがって、還付命令をせず申立を棄却した原決定は法令違反であり、取り消されるべきである。
実務上の射程
準抗告における裁判所の「変更」権限(430条2項)の具体的内容として、不作為または拒否処分に対して積極的な「還付命令」が可能であることを明示した判例である。答案上は、押収継続の必要性が消滅した際の救済手段を論じる場面で、裁判所の義務的措置として引用する。
事件番号: 令和7(し)177 / 裁判年月日: 令和7年11月10日 / 結論: その他
刑訴法430条の準抗告裁判所は、捜査機関の処分の当否を判断するに当たり、捜査機関が当該処分当時に収集していた資料のみならず、その当時の事実に関する資料であって、その後に捜査機関が収集し、又は裁判所に提出されたものについても考慮に入れるべきである。
事件番号: 昭和45(し)18 / 裁判年月日: 昭和45年9月17日 / 結論: 棄却
司法警察員がした差押処分等の取消を求める準抗告棄却決定に対する特別抗告が最高裁判所に係属中に当該差押物件が準抗告申立人に還付された場合には、差押処分等の取消を求める法律上の利益を欠くに帰したものであり、特別抗告が、この法律上の利益があることを前提とするときは、前提を欠くものとして棄却を免れない(最高裁判所昭和四二年(し…
事件番号: 昭和43(し)91 / 裁判年月日: 昭和44年8月27日 / 結論: 棄却
司法警察員が押収物を被害者に還付した後、当該押収物が他に売却、搬出され、被害者方に存在しなくなつた場合には、当該被害者還付処分の取消を求める準抗告は、実益を欠き、不適法である。
事件番号: 昭和62(し)15 / 裁判年月日: 平成2年4月20日 / 結論: その他
刑訴法一二三条一項による押収物の還付は、被押収者が還付請求権を放棄するなどして原状を回復する必要がない場合又は被押収者に還付することができない場合のほかは、被押収者に対してすべきである。