警視庁A警察署地域課に勤務する警察官が,同庁B警察署刑事課で捜査中の事件に関して,告発状を提出していた者から,告発状の検討,助言,捜査情報の提供,捜査関係者への働き掛けなどの有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨の下に供与されるものであることを知りながら,現金の供与を受けたときは,同警察官が同事件の捜査に関与していなかったとしても,刑法197条1項前段の収賄罪が成立する。
警視庁A警察署地域課に勤務する警察官が同庁B警察署刑事課で捜査中の事件に関して告発状を提出していた者から現金の供与を受けた行為につき収賄罪が成立するとされた事例
刑法197条1項,警察法64条
判旨
警察官の犯罪捜査に関する職務権限は管轄区域全域に及ぶため、担当部署以外の事件について有利な取り計らい等の趣旨で現金を受領した行為は、職務に関し賄賂を収受したものとして収賄罪が成立する。
問題の所在(論点)
警察官が、自身の勤務する警察署の管轄外かつ担当外の事件について便宜を図る趣旨で賄賂を受領した場合、刑法197条1項前段の「職務に関し」といえるか。
規範
刑法197条1項前段にいう「職務に関し」とは、公務員の一般的職務権限に属する事務であることを要するが、その職務権限は法令上の根拠に基づき客観的に定まる。警察官の場合、関係法令(警察法64条等)に基づき、犯罪捜査に関する職務権限は管轄区域の全域に及ぶと解される。したがって、具体的・個別的な事務を現に担当していることは要しない。
重要事実
警視庁の警部補として調布警察署地域課(交番)に勤務していた被告人は、多摩中央警察署が担当する公正証書原本不実記載等事件の告発人から、捜査情報の提供や捜査関係者への働き掛けなど、有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨で供与されるものであると知りながら、現金の供与を受けた。
あてはめ
被告人は警視庁の警察官であり、警察法64条等によれば、その職務権限は東京都全域に及ぶ。本件事件は多摩中央警察署(警視庁管内)の担当であり、被告人の一般的職務権限の範囲内に属する。被告人が当時調布警察署の交番勤務であり、当該事件の捜査に直接関与していなかったとしても、一般的職務権限が認められる以上、その受領した現金は「職務に関し」供与されたものと評価される。
結論
被告人の行為には刑法197条1項前段の収賄罪が成立する。
実務上の射程
公務員の職務権限の広汎性を肯定した判例であり、特に警察官については管轄区域内であれば具体的担当を問わず「職務関連性」が認められることを示した。答案上は、職務権限を「具体的・個別的権限」に限定せず「一般的職務権限」として広く捉える際の根拠として活用する。
事件番号: 昭和32(あ)2177 / 裁判年月日: 昭和33年3月13日 / 結論: 棄却
京都市中央市民病院の薬剤科部長として薬剤の調剤、製剤、検査、保管、整理等の事務を担任している者が、同病院の薬品の購入につき要求伝票を作成することは、その本来の職務と密接な関係にある行為に属し、薬品の購入に対する謝礼として薬品会社の社員より財物を収受し、饗応を受ける所為は収賄罪を構成する。
事件番号: 昭和39(あ)1716 / 裁判年月日: 昭和40年10月19日 / 結論: 棄却
刑法第一九七条にいう公務員の職務とは、公務員がその地位にもとづいて取り扱うすべての執務をいい、独立の決裁権があることを必要としないものと解するのが相当である。