前訴及び後訴の各訴因が共に単純窃盗罪である場合には,両者が実体的には一つの常習特殊窃盗罪を構成するとしても,前訴の確定判決による一事不再理効は,後訴に及ばない。
前訴及び後訴の各訴因が共に単純窃盗罪であるが実体的には一つの常習特殊窃盗罪を構成する場合と前訴の確定判決による一事不再理効の範囲
刑訴法337条1号,刑法235条,盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律2条
判旨
実体的には常習特殊窃盗罪として一罪を構成する場合であっても、前訴・後訴が共に単純窃盗罪として起訴されているならば、訴因のみを基準として比較対照し、両訴因に公訴事実の単一性がない限り、前訴確定判決の一事不再理効は後訴に及ばない。
問題の所在(論点)
実体法上は包括的一罪(常習特殊窃盗)となる関係にある複数の行為について、検察官がいずれも単純窃盗罪として分割して起訴し、一方が確定した場合、前訴確定判決の効力(一事不再理効)は、訴因に含まれていない常習性を考慮して後訴に及ぶか。刑事訴訟法337条1号の「確定判決を経たとき」の判断基準が問題となる。
規範
公訴事実の単一性の有無(刑訴法337条1号)の判断は、現行刑訴法が訴因制度を採用していることに鑑み、基本的には、前訴及び後訴の各訴因のみを基準としてこれらを比較対照することにより行う。両訴因がいずれも単純窃盗罪である場合、常習性の発露という面は訴因に上程されておらず、これを考慮すべき契機が存在しないため、常習特殊窃盗罪による一罪という観点を持ち込むことは相当ではない。
重要事実
被告人が、確定判決(前訴)前に別の機会において建造物侵入・窃盗(後訴事実)を行っていた。前訴の判決は単純窃盗罪等として確定しており、後訴も単純窃盗罪等として起訴された。実体的には、前訴事実と後訴事実は「常習性の発露」として、盗犯等防止法2条の常習特殊窃盗罪という包括的一罪を構成する関係にあったが、いずれの訴因にも常習性の事実は記載されていなかった。
あてはめ
本件の前訴及び後訴の訴因は、共に単純窃盗罪である。現行法下の審判対象は第一次的に訴因であるから、判断の基礎は両訴因に記載された事実に限られる。両訴因において「常習性」という要素は全く上程されていない以上、実体法上の一罪(包括一罪)という観点を持ち出すことはできない。そうすると、別個の機会に犯された単純窃盗罪に係る両訴因は、公訴事実の単一性を欠くことが明らかである。したがって、前訴の効力が後訴に及ぶことはない。
結論
前訴の確定判決による一事不再理効は後訴には及ばない。したがって、免訴を言い渡さず実体判決を維持した原判決は正当である。
実務上の射程
包括的一罪の一部について単純罪として確定判決がある場合、後訴も単純罪であれば一事不再理効は及ばない。ただし、判旨によれば、前訴または後訴のいずれか一方でも「常習罪」として起訴されている場合は、訴因から実体法上の一罪性が強くうかがわれるため、付随的に実体に立ち入って単一性を判断すべきとされる点に注意を要する。
事件番号: 令和2(あ)919 / 裁判年月日: 令和3年6月28日 / 結論: 棄却
前訴で住居侵入,窃盗の訴因につき有罪の第1審判決が確定した場合において,後訴の訴因である常習特殊窃盗を構成する住居侵入,窃盗の各行為が前訴の第1審判決後にされたものであるときは,前訴の訴因が常習性の発露として行われたか否かについて検討するまでもなく,前訴の確定判決による一事不再理効は,後訴に及ばない。