被疑者が宿泊しているホテル客室に対する捜索差押許可状の執行に当たり,捜索差押許可状の呈示に先立って警察官らがホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した措置は,差押対象物件である覚せい剤を短時間のうちに破棄隠匿されるおそれがあったことなど判示の事情の下では,適法である。
捜索差押許可状の呈示に先立ってホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した措置が適法とされた事例
刑訴法110条,刑訴法111条1項,刑訴法222条1項
判旨
捜索差押えの実効性を確保するために必要な場合には、令状呈示に先立って施錠されたドアを開錠して入室する措置は適法であり、入室直後の令状呈示も許容される。
問題の所在(論点)
捜索差押許可状の呈示(110条)を入室後に行った点、および事前告知なくマスターキーで開錠・入室した処分(111条1項)の適法性が問題となった。
規範
捜索差押許可状の呈示(刑訴法110条)は、原則として執行着手前に行うべきであるが、捜索差押えの実効性を確保するためにやむを得ない場合には、執行着手(入室)直後の呈示も適法となる。また、令状執行に際して必要な処分(同法111条1項)として、その態様が実効性確保のために必要で、かつ社会通念上相当な範囲内であれば、事前告知なしの開錠・入室も許容される。
重要事実
警察官らは、覚せい剤取締法違反の被疑者が宿泊するホテル客室を捜索場所とする許可状を得た。被疑者に前科があり、令状執行を察知されれば洗面所に薬物を流すなどして証拠を短時間で破棄隠匿する高度の蓋然性があった。そこで警察官らは、ホテルの支配人から借りたマスターキーを用い、来意を告げることなく施錠されたドアを開けて入室し、その直後に被疑者へ令状を呈示した。
事件番号: 平成11(あ)1164 / 裁判年月日: 平成15年5月26日 / 結論: 棄却
1 警察官がホテルの責任者から料金不払や薬物使用の疑いがある宿泊客を退去させてほしい旨の要請を受けて,客室に赴き職務質問を行った際,宿泊客が料金の支払について何ら納得し得る説明をせず,制服姿の警察官に気付くといったん開けたドアを急に閉めて押さえたなど判示の事情の下においては,警察官がドアを押し開けその敷居上辺りに足を踏…
あてはめ
本件では、薬物事犯の特性から証拠隠匿の具体的危険が認められ、捜索の実効性を確保する必要性が高い。マスターキーによる開錠・入室は、隠匿を防ぐために必要不可欠な手段であり、その態様も社会通念上相当な範囲に留まっている。また、入室後直ちに令状を呈示していることから、手続の公正や被処分者の人権への配慮という110条の趣旨を不当に損なうものではなく、実効性確保のためにやむを得ない措置といえる。
結論
本件の捜索差押手続は、令状呈示の時期および開錠入室の態様のいずれにおいても刑訴法の規定に則り適法である。
実務上の射程
証拠隠匿が極めて容易な薬物事犯等において、令状呈示の「原則」と「例外」を分けるメルクマールとなる判例である。答案では、証拠隠匿の具体的蓋然性を摘示した上で、必要性と相当性の観点から111条1項の「必要な処分」該当性と、110条の呈示時期の妥当性を論じる際に引用する。
事件番号: 平成13(あ)882 / 裁判年月日: 平成13年11月12日 / 結論: 棄却
夜間相当数の客が出入りするいわゆるラブホテルの4階の客室に宿泊した者が,同室の窓から直線距離で約12m,水平距離で約4m離れた同ホテル敷地内の駐車場の通路上に,覚せい剤の入ったセカンドバッグを投げ,同バッグを取り戻しに行くことなく翌朝までこれを放置し,一時同バッグを投げたこと自体の記憶も不確かになっていた上,その間に同…
事件番号: 平成18(あ)1733 / 裁判年月日: 平成19年2月8日 / 結論: 棄却
被疑者方居室に対する捜索差押許可状により同居室を捜索中に被疑者あてに配達され同人が受領した荷物についても,同許可状に基づき捜索することができる。