1 警察官がホテルの責任者から料金不払や薬物使用の疑いがある宿泊客を退去させてほしい旨の要請を受けて,客室に赴き職務質問を行った際,宿泊客が料金の支払について何ら納得し得る説明をせず,制服姿の警察官に気付くといったん開けたドアを急に閉めて押さえたなど判示の事情の下においては,警察官がドアを押し開けその敷居上辺りに足を踏み入れて,ドアが閉められるのを防止した措置は,適法である。 2 警察官が,ホテル客室に赴き宿泊客に対し職務質問を行ったところ,覚せい剤事犯の嫌疑が飛躍的に高まったことから,客室内のテーブル上にあった財布について所持品検査を行い,ファスナーの開いていた小銭入れの部分から覚せい剤を発見したなど判示の事情の下においては,所持品検査に際し警察官が暴れる全裸の宿泊客を約30分間にわたり制圧していた事実があっても,当該覚せい剤の証拠能力を肯定することができる。
1 警察官がホテル客室に赴き宿泊客に対し職務質問を行った際ドアが閉められるのを防止した措置が適法とされた事例 2 警察官がホテル客室において宿泊客を制圧しながら所持品検査を行って発見した覚せい剤について証拠能力が肯定された事例
警察官職務執行法2条1項,刑訴法1条,刑訴法317条
判旨
ホテル客室での職務質問において、客室内に足を踏み入れドアが閉まるのを防止する措置は、無銭宿泊や薬物使用の疑いが強い状況下では適法な付随処分である。また、強制にわたらない程度の無承諾の所持品検査も、捜査の必要性、緊急性、法益衡量を考慮し、相当と認められる限度で許容される。
問題の所在(論点)
1. 宿泊客の意思に反して客室のドアを押し開け、足を踏み入れる行為が警職法2条1項の限界を超えないか。 2. 承諾のない財布の開披検査が、所持品検査の許容限度を超えないか。 3. 全裸で長時間制圧した等の違法な状況下での証拠収集が、違法収集証拠排除法則に抵触しないか。
規範
1. 職務質問(警職法2条1項)に伴う客室内への立入り:原則として宿泊客の意思に反する立入りは許されないが、質問を継続し得る状況を確保するための必要最小限の措置は、職務質問に付随するものとして適法となり得る。 2. 所持品検査:所持人の承諾がない場合でも、①捜索に至らない程度の行為であり、②強制にわたらない限り、③必要性、緊急性、侵害法益と保護される公共の利益との権衡を考慮し、具体的状況下で相当と認められる限度において許容される。
事件番号: 平成14(あ)413 / 裁判年月日: 平成14年10月4日 / 結論: 棄却
被疑者が宿泊しているホテル客室に対する捜索差押許可状の執行に当たり,捜索差押許可状の呈示に先立って警察官らがホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した措置は,差押対象物件である覚せい剤を短時間のうちに破棄隠匿されるおそれがあったことなど判示の事情の下では,適法である。
重要事実
被告人はラブホテルでチェックアウト時間を過ぎても居座り、大量の飲料注文や不可解な言動を繰り返した。ホテル側の通報で臨場した警察官に対し、被告人は全裸で一瞬ドアを開けた後、慌てて閉めようとした。警察官はドアが閉まるのを防ぐため、内玄関の敷居に足を踏み入れたところ、被告人が殴りかかってきたため制圧。その際、被告人が注射器を握っていたことや覚せい剤前歴が判明した。警察官は被告人が所持していた財布を、承諾なく開披し、内部から覚せい剤を発見・押収した。なお、制圧から逮捕まで約30分間、被告人は全裸のまま押さえつけられていた。
あてはめ
1. 立入りについて:無銭宿泊や薬物使用の疑いが客観的に濃厚であり、不審な行動(ドアの急閉)に対し質問を継続する必要性が高かったことから、敷居に足を踏み入れる程度の措置は、職務質問に付随する適法な行為といえる。 2. 所持品検査について:注射器の把持や前歴の判明により、覚せい剤事犯の嫌疑は飛躍的に高まっており、証拠散逸の緊急性も高かった。財布を拾い上げ小銭入れを確認する程度の態様は、捜索に至らない相当な範囲の行為と解される。 3. 違法排除について:全裸で長時間押さえた点には許容限度を超える面があるが、公務執行妨害に対する制止の側面もあり、令状主義潜脱の意図は認められない。したがって、証拠能力を否定するほどの重大な違法とはいえない。
結論
本件各証拠(覚せい剤、注射器、尿の鑑定書等)の収集手続に、証拠能力を否定すべき重大な違法は認められない。
実務上の射程
警職法上の職務質問に伴う「有形力の行使」と「無承諾の所持品検査」の限界を示す重要判例。特に、プライバシー性の高いホテル客室であっても、宿泊権が実質的に失われつつある等の特殊事情下では、一定の立ち入りが認められる点に射程がある。答案では米沢郵便局事件等の規範とあわせ、比例原則の観点から具体的事実(嫌疑の程度、態様の相当性)を緻密に評価する際の指標となる。
事件番号: 昭和51(あ)865 / 裁判年月日: 昭和53年9月7日 / 結論: 破棄差戻
一 職務質問に附随して行う所持品検査は所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、たとえ所持人の承諾がなくても、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度…
事件番号: 平成13(あ)882 / 裁判年月日: 平成13年11月12日 / 結論: 棄却
夜間相当数の客が出入りするいわゆるラブホテルの4階の客室に宿泊した者が,同室の窓から直線距離で約12m,水平距離で約4m離れた同ホテル敷地内の駐車場の通路上に,覚せい剤の入ったセカンドバッグを投げ,同バッグを取り戻しに行くことなく翌朝までこれを放置し,一時同バッグを投げたこと自体の記憶も不確かになっていた上,その間に同…