夜間相当数の客が出入りするいわゆるラブホテルの4階の客室に宿泊した者が,同室の窓から直線距離で約12m,水平距離で約4m離れた同ホテル敷地内の駐車場の通路上に,覚せい剤の入ったセカンドバッグを投げ,同バッグを取り戻しに行くことなく翌朝までこれを放置し,一時同バッグを投げたこと自体の記憶も不確かになっていた上,その間に同バッグが第三者によって発見されるまで6時間以上経過していたなど判示の事実関係の下では,同バッグが発見された時点において,その覚せい剤を所持していたとはいえない。
覚せい剤取締法41条の2第1項にいう覚せい剤の所持に当たらないとされた事例
覚せい剤取締法14条,覚せい剤取締法41条の2第1項
判旨
覚せい剤取締法上の「所持」とは、人が物を保管する実力支配関係を指し、物理的な把持がなくても存在を認識し管理し得る状態にあれば足りる。しかし、ホテルの客室窓から投棄され、不特定多数が立ち入る駐車場に長時間放置された状態では、被告人の実力支配関係にあるとは認められない。
問題の所在(論点)
ホテルの客室窓から投棄され、ホテルの駐車場に落下・放置された覚せい剤について、被告人の「所持」が認められるか。投棄後の実力支配関係の有無が問題となる。
規範
覚せい剤取締法14条、41条の2第1項にいう「所持」とは、人が物を保管する実力支配関係を内容とする行為をいう。この関係は、必ずしも対象物を物理的に把持することまでは必要ではなく、その存在を認識してこれを管理し得る状態にあれば足りる。
重要事実
被告人はホテルの客室内で覚せい剤を使用後、幻覚に襲われ、覚せい剤入りのバッグ等を窓から外へ投げた。バッグはホテルの1階駐車場(不特定多数の客や車両が通行する場所)の通路上に落下した。被告人はチェックアウトするまでの約10時間、客室に留まりバッグを放置していた。バッグは投棄から約6時間後、通りかかった第三者によって発見された。被告人はバッグの落下場所を確認しておらず、投棄した自体の記憶も不確かであった。
あてはめ
まず、バッグが落下した場所はラブホテルの駐車場という第三者が容易に立ち入り、発見し得る場所であった。次に、投棄から発見まで6時間以上経過しており、その間被告人は客室内に留まって回収の措置を講じていない。さらに、被告人は具体的な落下場所を把握しておらず、一時的に投棄の記憶すら曖昧であった。これらの事実に照らせば、被告人が他の者に発見されないような形態で隠匿・管理していたとはいえず、被告人と本件覚せい剤との間に実力支配関係があったとは認められない。したがって、投棄後の時点において「所持」の要件を満たさない。
結論
被告人に、指定の時点・場所における覚せい剤所持罪は成立しない。(ただし、投棄前の客室内での所持については別途成立し得る。)
実務上の射程
「所持」の定義として大判昭30.12.21等を踏襲しつつ、場所的離隔・時間的経過・場所の公開性・主観的認識の欠如といった要素から実力支配を否定した事例。答案上は、物の管理可能性を肯定・否定する際の具体的考慮要素としてこれら4点を活用すべきである。
事件番号: 昭和30(あ)3630 / 裁判年月日: 昭和33年2月11日 / 結論: 棄却
被告人が本件覚せい剤につき実力支配を有せずこれを所持しないのに「所持」の解釈を誤まり有罪としたことは憲法三一条に違反すると主張する。しかし、原判決はその挙示する証拠によつて、被告人は本件覚せい剤をA方に預け、同人はさらにこれをB方に預け、右Bは被告人のためにこれを保管し、被告人もまた本件覚せい剤がA方からB方に預けられ…
事件番号: 平成14(あ)413 / 裁判年月日: 平成14年10月4日 / 結論: 棄却
被疑者が宿泊しているホテル客室に対する捜索差押許可状の執行に当たり,捜索差押許可状の呈示に先立って警察官らがホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した措置は,差押対象物件である覚せい剤を短時間のうちに破棄隠匿されるおそれがあったことなど判示の事情の下では,適法である。
事件番号: 平成13(あ)1678 / 裁判年月日: 平成15年2月14日 / 結論: その他
1 被疑者の逮捕手続には,逮捕状の呈示がなく,逮捕状の緊急執行もされていない違法があり,これを糊塗するため,警察官が逮捕状に虚偽事項を記入し,公判廷において事実と反する証言をするなどの経緯全体に表れた警察官の態度(判文参照)を総合的に考慮すれば,本件逮捕手続の違法の程度は,令状主義の精神を没却するような重大なものであり…