1 被疑者の逮捕手続には,逮捕状の呈示がなく,逮捕状の緊急執行もされていない違法があり,これを糊塗するため,警察官が逮捕状に虚偽事項を記入し,公判廷において事実と反する証言をするなどの経緯全体に表れた警察官の態度(判文参照)を総合的に考慮すれば,本件逮捕手続の違法の程度は,令状主義の精神を没却するような重大なものであり,本件逮捕の当日に採取された被疑者の尿に関する鑑定書の証拠能力は否定される。 2 捜索差押許可状の発付に当たり疎明資料とされた被疑者の尿に関する鑑定書が違法収集証拠として証拠能力を否定される場合であっても,同許可状に基づく捜索により発見され,差し押さえられた覚せい剤及びこれに関する鑑定書は,その覚せい剤が司法審査を経て発付された令状に基づいて押収されたものであり,同許可状の執行が別件の捜索差押許可状の執行と併せて行われたものであることなど判示の事情の下では,証拠能力を否定されない。
1 逮捕当日に採取された被疑者の尿に関する鑑定書の証拠能力が逮捕手続に重大な違法があるとして否定された事例 2 捜索差押許可状の発付に当たり疎明資料とされた被疑者の尿に関する鑑定書が違法収集証拠として証拠能力を否定される場合において同許可状に基づく捜索により発見押収された覚せい剤等の証拠能力が肯定された事例
刑訴法1条,刑訴法73条3項,刑訴法201条,刑訴法218条1項,刑訴法221条,刑訴法317条
判旨
違法な逮捕と密接な関連を有する証拠の証拠能力は否定されるべきだが、その後の差押えが別の適法な令状と併せて行われる等の事情があれば、関連性は遮断され証拠能力は認められ得る。
問題の所在(論点)
虚偽の捜査報告書等による糊塗工作を伴う無令状逮捕の違法性の程度、及び当該逮捕後の採尿鑑定書と、それを疎明資料として得られた派生証拠(差し押さえられた覚せい剤)の証拠能力が問われた。
規範
違法収集証拠排除法則により、①捜査手続に令状主義の精神を潜脱・没却するような重大な違法があり、②証拠を許容することが将来の違法捜査抑制の見地から相当でないと認められる場合、証拠能力は否定される。また、先行手続に重大な違法がある場合、これと「密接な関連」を有する派生証拠の証拠能力も否定されるが、司法審査の介在、他の適法な捜査の併行等の諸事情により関連性が希薄となった場合には、証拠能力は否定されない。
重要事実
警察官は、窃盗の逮捕状を携行せずに被告人を制圧・逮捕し、後に呈示したにもかかわらず、手続を糊塗するため逮捕状に虚偽記載をし、公判でも虚偽証言をした。この逮捕当日に任意採尿が行われ、その鑑定書(本証拠1)に基づき覚せい剤所持の捜索差押令状が発付された。同令状の執行は、逮捕前に発付されていた別の適法な窃盗事件の令状執行と併せて行われ、覚せい剤(本証拠2)が発見・押収された。
あてはめ
逮捕手続については、単なる呈示失念に留まらず、虚偽の公文書作成や虚偽証言により違法を隠蔽しようとする態度は令状主義を没却する重大な違法であり、これと密接に関連する本証拠1の証拠能力は否定される。一方、本証拠2については、証拠1を疎明資料としているものの、(1)独立した司法審査を経て発付された令状に基づくこと、(2)逮捕前に適法に発付されていた別の窃盗事件の令状執行と併せて行われたこと等の事情に照らせば、違法な逮捕との関連性は密接とはいえず、証拠能力を否定するまでもない。
結論
採尿鑑定書の証拠能力は否定される(覚せい剤使用は無罪)が、差し押さえられた覚せい剤等の証拠能力は認められる(覚せい剤所持については審理差し戻し)。
実務上の射程
違法収集証拠の派生証拠(果実)の証拠能力について、「関連性の希薄化(遮断)」を認めた重要な実務上の指標である。特に、先行手続に重大な違法があっても、後の差押えが別の適法な令状執行に「便乗」する形でなされた場合や、司法審査が実質的に機能している場合には、関連性が否定されやすいことを示唆している。
事件番号: 平成6(あ)611 / 裁判年月日: 平成8年10月29日 / 結論: 棄却
今状に基づく捜索の現場で警察官が被告人に暴行を加えた違法があっても、その暴行の時点は証拠物たる覚せい剤発見の後であり、被告人の発言に触発されて行われたものであって、証拠物の発見を目的とし捜索に利用するために行われたものとは認められないなど判示の事実関係の下においては、右証拠物を警察官の違法行為の結果収集された証拠として…