不動産競売の開始決定がされた不動産について、その売却の公正な実施を阻止するため所有者との間で右決定より前に短期賃貸借契約が締結されていた旨の内容虚偽の賃貸借契約書を裁判所に提出したときは、偽計による競売入札妨害罪が成立する。
裁判所に対する虚偽の賃貸借契約書の提出と競売入札妨害罪の成否
刑法96条の3
判旨
不動産競売において、存在しない賃貸借契約を装い、虚偽の契約書写しを裁判所に提出して取調べを要求する行為は、刑法96条の3第1項(当時)の偽計による競売入札妨害罪を構成する。
問題の所在(論点)
競売を妨害する目的で、裁判所に対し虚偽の賃貸借契約の存在を装い、虚偽の契約書写しを提出する行為が、刑法96条の3第1項(現行96条の6第1項)の「偽計」を用いて「競売…の公正を害すべき行為」に該当するか。
規範
競売入札妨害罪における「偽計」とは、人を欺き、あるいは人の不知・錯誤を利用することをいい、これによって公の競売または入札の公正な実施を妨げるおそれのある状態を発生させることを指す。本罪は抽象的危険犯であり、現実に妨害の結果が生じることまでは必要としない。
重要事実
被告人は共犯者らと共謀し、不動産競売開始決定がなされた土地建物について、売却の公正な実施を阻止しようと企てた。被告人らは、実際には賃貸借契約が存在しないにもかかわらず、競売開始決定より前に短期賃貸借契約が締結されていた旨の内容虚偽の契約書写しを作成した。その上で、当該不動産は既に他へ賃貸されているため取調べを要求する旨の上申書とともに、右虚偽書類を執行裁判所に提出した。
あてはめ
被告人らは、存在しない賃貸借契約があたかも存在するかのように装い、内容虚偽の契約書写しを裁判所に提出して事実を誤認させようとしている。これは、裁判所や入札検討者を欺き、その不知・錯誤を利用する行為であって「偽計」に該当する。また、このような虚偽の短期賃貸借の存在を主張することは、競売不動産の評価や買受希望者の判断を誤らせ、売却価格の下落や入札意欲の減退を招くものである。したがって、不動産競売の公正な実施を阻止するおそれのある行為であり、同罪の構成要件を充足するといえる。
結論
被告人には、刑法96条の3第1項所定の偽計による競売入札妨害罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、執行裁判所に対する虚偽書類の提出が「偽計」にあたることを明示した。答案上は、競売妨害における「偽計」の典型例(占有屋による虚偽の占有権原主張など)を論じる際の論拠として使用できる。現行法では96条の6第1項に規定されているが、判断枠組みに変更はない。
事件番号: 平成8(あ)235 / 裁判年月日: 平成10年11月4日 / 結論: 棄却
不動産の競売における入札により最高価買受申出人となった者に対し、威力を用いてその入札に基づく不動産の取得を断念するよう要求したときは、競売入札妨害罪が成立する。
事件番号: 昭和44(あ)2554 / 裁判年月日: 昭和46年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】宅地建物取引業法に基づく免許を受けずに宅地建物の売買を反復継続して行う行為は、個別の取引の目的がいかなるものであっても、同法12条1項に違反する。 第1 事案の概要:被告人は、宅地建物取引業の免許を受けずに、多数の土地の購入等の取引(犯罪一覧表記載の番号1ないし13の行為)を反復して行っていた。被…
事件番号: 平成17(あ)1153 / 裁判年月日: 平成18年12月13日 / 結論: 棄却
現況調査に訪れた執行官に対して虚偽の事実を申し向け,内容虚偽の契約書類を提出した行為は,刑法96条の3第1項の「公の競売又は入札の公正を害すべき行為」に当たるが,上記虚偽の事実の陳述等に基づく競売手続が進行する限り(判文参照),その行為の時点をもって,刑訴法253条1項にいう「犯罪行為が終つた時」とはならない。