共有者の1人が共有不動産から生ずる賃料を全額自己の収入として不動産所得の金額を計算し,納付すべき所得税の額を過大に申告してこれを納付したとしても,他人のために事務を管理したということはできず,事務管理は成立しない。
共有者の1人が共有不動産から生ずる賃料を全額自己の収入として所得税の額を過大に申告しこれを納付した場合における事務管理の成否
民法697条
判旨
共有不動産の賃料を独占した共有者が、その全額を自己の収入として所得税等を過大に申告・納付したとしても、それは自己の事務であって、他の共有者に対する事務管理は成立しない。
問題の所在(論点)
共有者の1人が、他の共有者に帰属すべき賃料収入を含めて自己の所得として過大に申告・納付した場合、その過大納付分について他の共有者のための事務管理が成立するか。
規範
事務管理(民法697条1項)が成立するためには、「他人のために」事務を管理することが必要である。所得税等は納税義務者個人に対して課されるものであり、本来他人に帰属すべき収入を自己の収入として申告・納付したとしても、その納税義務は申告者本人に帰属し、他人の納税義務を消滅させるものではない。したがって、過大な申告納付は自己の事務としての性質を有し、他人のための事務管理とは認められない。
重要事実
共有持分2分の1ずつを有する兄弟A(上告人)とB(被上告人)において、Bが共有不動産の賃料全額(約7091万円)を独占的に受領し、これをすべて自己の所得として所得税等の確定申告・納税を行った。AはBに対し、自己の持分に相当する賃料の不当利得返還を請求した。これに対し、Bは、Aに帰属すべき所得分を自己の収入に計上して過大に支払った税金相当額(約230万円)について、事務管理に基づく費用償還請求権(民法702条1項)が発生したと主張し、Aの債権と相殺する旨の抗弁を提出した。
あてはめ
所得税は個人の所得に対して課される税であり、納税義務者はその個人自身である。BがAに帰属すべき賃料を自己の収入に含めて申告した結果、税額が過大になったとしても、Aがその分の納税義務を負うわけではなく、Bが申告額全額の納税義務を負う。また、Bの納付によってAの本来負うべき納税義務が消滅することもない。したがって、Bによる過大な所得税等の申告・納付は、客観的にも主観的にもB自身の事務の処理にすぎず、「他人のために」事務を管理したとはいえない。住民税(市県民税)についても同様である。
結論
Bの過大納税分について事務管理は成立しない。したがって、Bの費用償還請求権を自働債権とする相殺の抗弁は認められず、Aは相殺前の不当利得返還請求権(他の適法な相殺等を除いた残額)を行使できる。
実務上の射程
事務管理の「他人の事務」性の判断において、公法上の納税義務の帰属が決定的な考慮要素となることを示した。他人の利益になる側面があっても、義務の性質上、専ら自己の事務と評価される場合には事務管理の成立を否定する実務上の指針となる。答案上は、不当利得の返還範囲や事務管理の成立要件における「他人の事務」の解釈として利用する。
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