公立小学校の教員が,悪ふざけをした2年生の男子を追い掛けて捕まえ,その胸元を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんなよ。」と叱った行為は,上記男子が,休み時間に,通り掛かった女子数人を蹴った上,これを注意した上記教員のでん部付近を2回にわたって蹴って逃げ出したことから,このような悪ふざけをしないように指導するために行われたものであり,悪ふざけの罰として肉体的苦痛を与えるために行われたものではないなど判示の事情の下においては,その目的,態様,継続時間等から判断して,教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく,学校教育法11条ただし書にいう体罰に該当せず,国家賠償法上違法とはいえない。
公立小学校の教員が,女子数人を蹴るなどの悪ふざけをした2年生の男子を追い掛けて捕まえ,胸元をつかんで壁に押し当て大声で叱った行為が,国家賠償法上違法とはいえないとされた事例
国家賠償法1条1項,学校教育法11条
判旨
教諭が児童の不適切な行為を制止するために行った有形力の行使について、児童への教育上の必要性から行われたものであり、その態様が合理的範囲内にある場合には、学校教育法11条ただし書の「体罰」に該当せず、正当な業務行為として違法性が否定される。
問題の所在(論点)
教諭が児童の腕を掴んで壁に押し当てた行為が、学校教育法11条ただし書により禁止される「体罰」に該当し、国家賠償法上の違法性を有するか。
規範
学校教育法11条ただし書が禁止する「体罰」とは、懲戒の内容として肉体的苦痛を与えるものを指す。他方、児童を教示・誘導し、またはその非行を制止するために行われる、教育上必要な有形力の行使は、それが合理的範囲内にとどまる限り、懲戒としての体罰には当たらない。その適否は、児童の非行の程度、制止の目的、有形力行使の態様、児童の心身への影響を総合考慮して判断すべきである。
重要事実
市立小学校の教諭が、放課後の指導中に他の児童を足蹴にする等の悪ふざけを繰り返す児童A(2年生)を注意したが、Aがこれを無視して教諭の腹部を3回蹴って逃げ出そうとした。教諭はAを捕まえて指導を行うため、Aの右腕を右手で掴んで壁に押し当て、約30分間にわたり説得を続けた。Aは後に「腕に痛みを感じた」と訴え、通院治療を要する軽微な負傷を負ったが、その後学校生活に支障はなく、保護者も教諭の指導を一定程度容認していた。
あてはめ
まず、本件行為はAの不適切な悪ふざけ及び教諭への暴行という具体的非行を制止し、適切な指導を行う目的でなされたものであり、教育上の必要性が認められる。次に、態様についても、逃走しようとするAを確保するために腕を掴んだもので、殴打や蹴りつけといった攻撃的なものではない。児童が軽微な負傷を負った事実はあるが、一連の悪ふざけに対する反省を促す過程で生じた付随的なものであり、肉体的苦痛を目的とした懲戒とは認められない。したがって、本件行為は社会通念上許容される合理的範囲内の有形力行使といえる。
結論
本件行為は学校教育法11条ただし書にいう体罰には該当せず、違法性は認められない。よって、国家賠償請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
本判決は、教育現場における「正当な指導」と「体罰」の境界線を示した。特に、突発的な問題行動に対する「制止」や「確保」を目的とする有形力行使については、懲戒目的の体罰とは区別して判断される実務上の指針となっている。
事件番号: 昭和30(あ)1978 / 裁判年月日: 昭和33年4月3日 / 結論: 棄却
原判決が殴打のような暴行行為はたとえ教育上必要な懲戒行為としてでも犯罪の成立上違法性を阻却せしめるとは解されないとしたこと、並びに、所論学校教育法一一条違反行為が他面において刑罰法規に触れることがあるものとしたことは、いずれも、正当として是認することができる。
事件番号: 昭和57(オ)49 / 裁判年月日: 昭和59年2月9日 / 結論: 棄却
公立高校の生徒が体育自習授業の終了間際の体育用具の後片付け中に同級生に対し体操用マットではさんで踏みつける等の集団暴行を加えて重傷を負わせた事故について、右暴行が事故現場付近で他の学級の体育授業を行いながら右自習の監督もしていた教諭の監視しうる場所で公然と行われた等原判示の事実関係のもとにおいては、同教諭に生徒の安全保…
事件番号: 平成20(受)284 / 裁判年月日: 平成21年12月10日 / 結論: 破棄自判
学校による生徒募集の際に説明,宣伝された教育内容や指導方法の一部が変更され,これが実施されなくなったことが,親の期待,信頼を損なう違法なものとして不法行為を構成するのは,当該学校において生徒が受ける教育全体の中での当該教育内容や指導方法の位置付け,当該変更の程度,当該変更の必要性,合理性等の事情に照らし,当該変更が,学…