株式会社の代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をした場合,当該会社以外の者が取締役会の決議を経ていないことを理由にその無効を主張することは,当該会社の取締役会が上記無効を主張する旨の決議をしているなどの特段の事情がない限り,許されない。
株式会社の代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をしたことを理由に同取引の無効を会社以外の者が主張することの可否
会社法362条4項,会社法349条4項
判旨
代表取締役が取締役会決議を経ずに重要な業務執行を行った場合、その取引の無効は、原則として会社のみが主張でき、会社以外の者は、取締役会が無効主張を決定したなどの特段の事情がない限り、これを主張できない。
問題の所在(論点)
代表取締役が取締役会決議を経ずにした「重要な財産の処分」の無効を、会社以外の第三者(債権の債務者)から主張することができるか。
規範
代表取締役が取締役会の決議を経ずに「重要な業務執行」(会社法362条4項)に該当する取引を行った場合、取引の相手方が悪意又は有過失であれば当該取引は無効となる。しかし、同条項の趣旨は、取締役間の協議により会社利益を保護することにある。したがって、この無効は原則として会社のみが主張し得るものであり、会社以外の第三者は、会社の取締役会が無効を主張する旨の決議をしているなどの特段の事情がない限り、当該無効を主張することはできない。
重要事実
A社の代表取締役は、事実上倒産した際、唯一の価値ある財産であった2億円超の過払金返還請求権を、取締役会決議を経ずに債権者であるYへ譲渡した(本件債権譲渡)。譲受人Yは決議を経ていない事実を知っていた。その後、当該債権の債務者である被上告人(銀行等)に対し、Yが支払を求めたところ、被上告人は「本件債権譲渡は取締役会決議を欠き無効である」と主張して、支払を拒絶した。
あてはめ
本件債権譲渡は、倒産状態にあるA社のほとんど唯一の財産を処分するものであり、「重要な財産の処分」に該当する。譲受人Yは決議欠缺につき悪意であったが、会社Aの取締役会において、この債権譲渡の無効を主張する旨の決議がなされたといった特段の事情は認められない。したがって、債務者にすぎない被上告人は、内部的な意思決定の欠如を理由として、会社A以外の第三者の立場から本件債権譲渡の無効を主張することはできないと解される。
結論
会社以外の第三者は、特段の事情がない限り、取締役会決議を欠く重要な業務執行の無効を主張することはできない。したがって、被上告人の無効主張は認められない。
実務上の射程
会社法362条4項違反の効力について、相対的無効説の立場から主張権者を限定した。答案上は、相手方が悪意・有過失で「無効」となる場合であっても、それを主張できる主体が会社側に限られる(第三者からの援用制限)点に注意して論述する。
事件番号: 昭和52(オ)1109 / 裁判年月日: 昭和53年2月16日 / 結論: 棄却
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