1 金融機関は,預金契約に基づき,預金者の求めに応じて預金口座の取引経過を開示すべき義務を負う。 2 預金者の共同相続人の一人は,共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき,被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる。
1 金融機関の預金者に対する預金口座の取引経過開示義務の有無 2 共同相続人の一人が被相続人名義の預金口座の取引経過開示請求権を単独で行使することの可否
(1,2につき)民法645条,民法656条,民法666条 (2につき)民法252条,民法264条,民法898条
判旨
金融機関は預金契約に基づき、預金者の求めに応じて取引経過を開示すべき義務を負う。預金者が死亡した場合、共同相続人の一人は、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、単独でこの開示請求権を行使することができる。
問題の所在(論点)
預金契約に基づき、金融機関は取引経過の開示義務を負うか。また、預金者が死亡した場合、共同相続人の一人は他の相続人の同意なく単独で開示を請求できるか。
規範
1. 預金契約は消費寄託の性質を有するが、振込入金の受入れや各種料金の自動支払等の(準)委任事務としての性質も含む。受任者は、委任事務の処理状況を把握し適切さを判断するために不可欠な情報の報告義務(民法645条、656条)を負うため、金融機関は預金契約に基づき取引経過を開示すべき義務を負う。2. 預金者が死亡した場合、共同相続人の一人は、預金契約上の地位に基づき、保存行為(同法264条、252条ただし書)として単独で開示請求権を行使できる。
重要事実
被相続人AおよびBの共同相続人の一人である被上告人が、信用金庫(上告人)に対し、AおよびB名義の預金口座の取引経過の開示を求めた。これに対し上告人は、他の共同相続人全員の同意がないことを理由に、プライバシー侵害や守秘義務違反を主張して開示を拒絶した。
事件番号: 平成29(受)1908 / 裁判年月日: 平成31年3月18日 / 結論: 破棄自判
相続財産についての情報が被相続人に関するものとしてその生前に個人情報保護法2条1項にいう「個人に関する情報」に当たるものであったとしても,そのことから直ちに,当該情報が当該相続財産を取得した相続人又は受遺者に関するものとして上記「個人に関する情報」に当たるということはできない。
あてはめ
預金口座の取引経過は金融機関の事務処理を反映したものであり、預金増減の原因把握や事務処理の適切性判断に不可欠であるから、契約上の開示義務が認められる。また、開示の相手方が共同相続人である限り、預金者のプライバシー侵害等の問題は生じない。本件では権利濫用を基礎付ける事情もないため、被上告人は単独で開示を請求できる。
結論
共同相続人の一人は、他の共同相続人の同意がなくても、単独で被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を求めることができる。
実務上の射程
遺産分割協議の前提となる相続財産調査において、特定の相続人による使い込み等の不正を調査する手段として極めて重要である。預金債権自体が当然分割されるか否か(最判平28.12.19等)に関わらず、契約上の地位に基づく保存行為として単独行使を認めている点に答案作成上の意義がある。
事件番号: 昭和47(オ)111 / 裁判年月日: 昭和48年7月19日 / 結論: 破棄差戻
譲渡禁止の特約のある債権の譲受人は、その特約の存在を知らないことにつき重大な過失があるときは、その債権を取得しえない。
事件番号: 平成19(許)23 / 裁判年月日: 平成19年12月11日 / 結論: 破棄自判
1 金融機関が民事訴訟において訴訟外の第三者として開示を求められた顧客情報について,当該顧客自身が当該民事訴訟の当事者として開示義務を負う場合には,同情報は,金融機関がこれにつき職業の秘密として保護に値する独自の利益を有するときは別として,民訴法197条1項3号にいう職業の秘密として保護されない。 2 A,Bを当事者と…