電車内でXから痴漢行為を受けた旨のYの警察官に対する申告が虚偽であることを理由としてXがYに損害賠償を求める訴訟において,目撃者が見付からない場合に,(1)痴漢行為があったとYが主張する時点の前後にかけてYと電話をしていたAが電話を通して聞いたXとYの発言についてのAの検察官に対する供述内容が,Yの供述と整合しない一方で,Xの供述と合致すること,(2)Aは目撃証人に準ずる立場にある唯一の人物ということができることなど判示の事情の下においては,Aの証人尋問を実施することなく,Yの供述の信用性を肯定し,Xの供述の信用性を否定して,Xが痴漢行為をしたと認めた原審の判断には,違法がある。
痴漢の虚偽申告を理由とするXのYに対する損害賠償請求訴訟において,目撃者が見付からない場合に,これに準ずる立場にある者の証人尋問を実施せず,Yの供述の信用性を肯定して,Xが痴漢行為をしたと認めた原審の判断に違法があるとされた事例
民法709条,民訴法181条,民訴法247条
判旨
不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において、主要な目撃証人が不在の中、一方の当事者の供述と矛盾し、他方の供述と合致する「目撃証人に準ずる者」の供述が存在する場合、その詳細を証人尋問等で確認せずに供述の信用性を判断することは、審理不尽の違法がある。
問題の所在(論点)
不法行為の成否を判断するにあたり、当事者双方の供述が対立し、かつ唯一の「目撃証人に準ずる立場」にある第三者の供述が一方の当事者の供述と矛盾する場合に、直接の証人尋問を経ずに事実認定を行うことが許されるか。
規範
事実認定において、当事者の一方の供述と、第三者による「客観的中立的な証言が期待できる供述」との間に看過し得ない食い違いがある場合には、当該第三者の具体的な供述内容や当時の状況を直接確かめることなく、具体的根拠を欠いたまま推論によって当事者の供述の信用性を肯定することは許されない。裁判所は、必要に応じて当該第三者の証人尋問を実施するなど、適切な証拠調べを通じて真実を発見すべき義務を負う(審理不尽の禁止)。
重要事実
上告人(被告)は電車内で被上告人(原告)に対し携帯電話の使用を注意したが、被上告人は痴漢被害に遭ったと警察官に申告し、上告人は現行犯逮捕された。その後、嫌疑不十分で不起訴となった上告人が、虚偽の申告であるとして不法行為に基づく損害賠償を求めた。被上告人は、痴漢行為の最中にカラオケ講師Aと電話中であり、Aは検事に対し、被上告人が「変な人が近づいてきた」と言った直後に男性の注意する声が聞こえただけで、痴漢被害を窺わせる発言は聞こえなかったと供述していた。原審はAの証人尋問を行わず、騒音等の推測に基づき被上告人の供述を信用できるとして請求を棄却した。
あてはめ
本件では、被上告人の供述とAの供述には看過し得ない食い違いがある一方、上告人の供述はAの供述と整合している。Aは被上告人と特段の利害関係がなく、客観的中立的な証言が期待できる「目撃証人に準ずる唯一の人物」である。それにもかかわらず、原審はAの証人尋問を実施せず、検事の証言等のみに基づき、具体的根拠なく「騒音の影響で聞こえなかった可能性がある」と被上告人に有利な推測を重ねて事実を認定した。これは、重要な証拠の価値を適正に評価するための審理を尽くしていないといえる。
結論
原審の判断には、審理不尽の結果、結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。したがって、原判決を破棄し、更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
痴漢事件のように密室性が高く、直接の客観証拠が乏しい事案において、当事者の供述の信用性を判断する際の指針となる。特に「目撃証人に準ずる第三者」が存在する場合、その供述を安易な推測で排斥することは許されず、実務上は慎重な証拠調べ(直接主義の要請)が求められることを示した。
事件番号: 昭和37(オ)178 / 裁判年月日: 昭和39年5月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が申し出た証拠が唯一の証拠方法である場合を除き、裁判所は審理の経過から必要がないと認めるときは、その取調べを要しない。また、売買契約の対象外である立木を、相手方代理人の不正な黙認を得て伐採する行為は不法行為を構成する。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人所有の山林から立木を買い受ける契約を…
事件番号: 平成19(受)808 / 裁判年月日: 平成20年6月12日 / 結論: その他
1 放送事業者又は放送事業者が放送番組の制作に協力を依頼した関係業者から放送番組の素材収集のための取材を受けた取材対象者が,取材担当者の言動等によって,当該取材で得られた素材が一定の内容,方法により放送に使用されるものと期待し,あるいは信頼したとしても,その期待や信頼は原則として法的保護の対象とはならない。もっとも,当…