強盗致傷の非行事実を認定して少年を中等少年院送致とした家庭裁判所の決定が,抗告審で事実誤認を理由に取り消されて差し戻された場合において,受差戻審の家庭裁判所が検察官の申し出た証拠を取り調べなかった措置は,上記抗告審の決定が,受差戻審に更なる証拠調べを求めたものではなく,上記証拠を取り調べることにより同決定の結論が覆る蓋然性も認められないことに加え,本件の審理経過や早期,迅速な処理が要請される少年保護事件の特質をも考慮すると,合理的な裁量の範囲内のものであり,同決定が示した消極的否定的判断に従い非行なしとして少年を保護処分に付さなかった受差戻審の決定に法令違反はない。 (補足意見がある。)
強盗致傷の非行事実を認定して少年を中等少年院送致とした家庭裁判所の決定が,抗告審で事実誤認を理由に取り消されて差し戻された場合において,検察官の申し出た証拠を取り調べずに,非行なしとして少年を保護処分に付さなかった受差戻審の決定に法令違反はないとされた事例
少年法8条,少年法14条,少年法32条,少年法33条2項,少年法35条
判旨
少年保護事件の差戻審において、付添人が無罪(非行事実なし)を主張し、検察官が新たな証拠調べを求めた場合でも、裁判所がその必要性がないと判断して証拠調べを行わず不処分決定をすることは、合理的な裁量の範囲内であれば適法である。また、差戻審は、上訴審が示した事実認定に関する消極的・否定的判断に拘束される。
問題の所在(論点)
少年保護事件の差戻審において、検察官が申し立てた新証拠(防犯カメラ映像の解析・実験DVD等)の取調べを行わずに不処分決定をしたことが、証拠調べの必要性判断に関する裁量の逸脱または法令違反に当たるか。
規範
少年保護事件においても、証拠調べの必要性の判断は裁判所の合理的な裁量に委ねられる。また、差戻しを受けた裁判所は、上級審の決定が示した判断(特に証拠の信用性を否定する消極的判断)に拘束されるため、新たな証拠によってその判断を覆すに足りる蓋然性がない限り、さらなる証拠調べを行わずに不処分決定をすることは許容される。
事件番号: 平成17(し)23 / 裁判年月日: 平成17年3月30日 / 結論: 棄却
1 少年保護事件の抗告裁判所による非行事実の認定に関する事実の取調べは,少年保護事件の抗告審としての性質を踏まえ,合理的な裁量により行われるべきである。 2 少年保護事件につき検察官のした抗告受理の申立てに基づく抗告審において,非行事実の認定に関し,家庭裁判所が検討していなかった共犯者のアリバイ供述等の信用性を検討しな…
重要事実
14歳の少年が共謀の上、通行人に暴行を加え傷害を負わせ現金を強奪したとされる強盗致傷非行事実。第1次審判は少年院送致としたが、抗告審は共犯者の体格と防犯カメラ映像の不一致、別共犯者のアリバイ(携帯メール等の客観的証拠)、自白の変遷や誘導の疑いを指摘し、第1次決定を取り消し差し戻した。差戻審(第2次家裁)は、検察官が申し立てたビデオ検証(遠近法による体格の見え方の実験)等の証拠調べを「必要性なし」として却下し、非行事実なしとして不処分決定をした。これに対し第2次抗告審が、証拠調べを行わなかった点に法令違反があるとして再度取り消したため、少年側が再抗告した。
あてはめ
第1次抗告審は、共犯者の体格差、アリバイの可能性、自白の任意性・信用性の欠如など多角的な観点から非行事実に合理的疑いを示しており、検察官が提出したDVD等は、そのうちの一個の論点(遠近法による体格の見え方)を補足するものに過ぎない。被害者の供述や共犯者の客観的な不在(メール履歴)等、他の有力な消極証拠を覆すに足りる蓋然性は認められない。また、少年保護事件における迅速な処理の要請も考慮すれば、差戻審がこれら新証拠の取調べを不要と判断したことは、裁判所の合理的な裁量の範囲内といえる。したがって、第1次抗告審の拘束力に従い、非行なしと判断した第2次家裁決定に法令違反はない。
結論
第2次家裁の不処分決定を取り消した原決定(第2次抗告審決定)には、重大な法令違反がある。原決定を取り消し、検察官の抗告を棄却すべきである。
実務上の射程
裁判所の証拠調べの裁量権と、差戻審における上級審の判断の拘束力を示した判例。特に、自白の信用性が客観的証拠(メール等のデジタル証拠)によって揺らいでいる場合、検察側の補充的な立証が結論を覆すに足りないものであれば、裁判所は早期に審理を終結させることが可能であることを示唆しており、少年の権利保護と迅速な手続の調和の観点から重要である。
事件番号: 昭和54(し)107 / 裁判年月日: 昭和54年12月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保護処分の決定に対する抗告の申立書の記載方式や抗告期間の定めは、専ら立法政策の問題であり、これらを定める少年審判規則が憲法14条、31条、32条に違反することはない。 第1 事案の概要:少年による保護処分決定に対する抗告手続において、抗告人が少年審判規則43条2項(抗告の申立理由の記載等)等の規定…
事件番号: 平成9(し)240 / 裁判年月日: 平成10年4月21日 / 結論: 棄却
少年が非行事実の存在を争っている保護事件において、家庭裁判所がその争点について少年法一六条に基づき捜査機関に援助協力を依頼して回答を得ながら、右回答の存在を附添人に了知させなかった措置は、妥当性を欠いたものであるが、右回答は附添人らがその内容を了知していた捜査書類を要約したものなどであって、証拠全体の中で重要な位置を占…
事件番号: 昭和59(し)20 / 裁判年月日: 昭和60年4月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】少年法27条の2第1項に基づく保護処分の取消しが認められるためには、確定審判の非行事実の認定を覆すに足りる、審判権がなかったことを認め得る明らかな資料が必要である。本件では、当初の自白の任意性・信用性が高く、後出の否認供述や新証拠(ナイフ)に不自然な点があることから、同要件を充たさないと判断された…
事件番号: 昭和60(し)109 / 裁判年月日: 昭和60年10月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】少年事件の自白の任意性については、刑事訴訟の原則に準じて判断されるべきであり、任意性が認められる限り、憲法38条2項に違反しない。 第1 事案の概要:少年Aおよび少年Bが関与した保護事件において、附添人は自白の任意性を争い、原審の判断が憲法31条、37条2項、38条等に違反すると主張して再抗告した…