外国で覚せい剤を密輸船に積み込んだ上,海上に投下し,回収担当者において小型船舶で回収して本邦に陸揚げするという方法による覚せい剤輸入を計画し,本邦内海の湾内に至って覚せい剤を投下したが,悪天候等のため,回収できなかったなど判示の事実関係の下では,覚せい剤が陸揚げされる客観的危険性が発生しておらず,覚せい剤取締法41条の輸入罪及び関税法(平成17年法律第22号による改正前のもの)109条1項,3項の禁制品輸入罪の実行の着手があったとはいえない。
船舶から海上に投下し回収する方法により覚せい剤を輸入しようとした行為につき,覚せい剤取締法41条の輸入罪及び関税法(平成17年法律第22号による改正前のもの)109条1項,3項の禁制品輸入罪の実行の着手があったとはいえないとされた事例
覚せい剤取締法13条,覚せい剤取締法41条,関税法(平成17年法律第22号による改正前のもの)109条1項,関税法(平成17年法律第22号による改正前のもの)109条3項,刑法43条
判旨
公海上の機材(浮標)を投下・設置する行為が、刑法上の「不法領得の意思」を欠き、また公海上の行為として刑法が適用されないため、窃盗罪等の構成要件を充足しないとされた事例。
問題の所在(論点)
公海上に設置された他人の所有物(浮標)を一時的に回収し、再度公海上の別地点に設置する行為について、窃盗罪における「不法領得の意思」が認められるか。また、日本国外の公海上での行為に刑法が適用されるか。
規範
不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従い利用・処分する意思をいう。また、日本国外の公海上において行われた行為については、刑法1条(国内犯)の適用がなく、特別の規定がない限り日本の処罰権は及ばない。
重要事実
被告人らは、公海上において、調査機材である浮標(ブイ)を回収し、本船に積み込ませるなどした。当初の予定地とは異なる地点において、当該浮標に重しを付けるなどの処置を施した上で、再度公海上の海中に投下・設置した。この一連の行為において、被告人らが浮標を自己の所有物として永続的に利用する意思や、経済的価値を費消する意思があったかは厳格に判断される必要がある。
事件番号: 平成19(あ)2081 / 裁判年月日: 平成20年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】覚せい剤を海上に投下し、これを小型船舶で回収して陸揚げする計画において、投下した覚せい剤を回収できず、その実力的支配下に置く可能性も乏しい段階では、輸入罪の実行の着手は認められない。 第1 事案の概要:被告人らは共犯者と共謀し、外国で覚せい剤を密輸船に積み込み、日本近海まで航行させ、海上に投下した…
あてはめ
被告人らの行為は、浮標を一時的に回収したものの、直ちに別の公海上の地点に再設置(投下)している。これは、浮標を自己の所有物としてその経済的価値を享受しようとする意思(不法領得の意思)に基づくものとは認めがたい。また、行為の主要な態様が日本国外の公海上で行われており、日本刑法1条の適用要件を充足しない。したがって、構成要件に該当する違法な行為とは評価できない。
結論
被告人らの行為について、不法領得の意思を欠き、かつ処罰権の範囲外であるとして、窃盗罪等の成立を否定した原判決の判断は正当である。
実務上の射程
本判決は、公海上の科学調査機材等の取り扱いに関する刑事責任の限界を示したものであり、窃盗罪の主観的構成要件(不法領得の意思)の厳格な解釈と、刑法の場所的適用範囲の原則を再確認する意義を持つ。
事件番号: 平成19(あ)1985 / 裁判年月日: 平成20年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】洋上で覚せい剤を密輸船から投下し、小型船舶で回収して陸揚げしようとした事案において、回収担当者が覚せい剤を実力的支配下に置かず、その可能性も乏しい段階では、輸入罪の実行の着手は認められない。 第1 事案の概要:被告人は共犯者と共謀し、外国で覚せい剤を密輸船に積み込み、本邦近海まで航行させた。その後…
事件番号: 平成13(あ)275 / 裁判年月日: 平成13年11月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】覚せい剤取締法41条1項の覚せい剤輸入罪は、船舶により領海外から搬入する場合、領土への陸揚げの時点で既遂に達する。公海上で覚せい剤を受け取り、これを本邦領海内に搬入したのみでは、いまだ既遂には至らない。 第1 事案の概要:被告人らは、運行を支配している小型船舶を用いて、公海上で他の船舶から覚せい剤…
事件番号: 平成24(あ)167 / 裁判年月日: 平成25年4月16日 / 結論: 棄却
覚せい剤を密輸入した事件について,被告人の故意を認めながら共謀を認めずに無罪とした第1審判決には事実誤認があるとした原判決は,被告人が,犯罪組織関係者から日本に入国して輸入貨物を受け取ることを依頼され,その中に覚せい剤が隠匿されている可能性を認識しながらこれを引き受けたという本件事実関係の下では,特段の事情がない限り,…
事件番号: 平成13(あ)93 / 裁判年月日: 平成13年11月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】覚せい剤を船舶によって領海外から搬入する場合、覚せい剤取締法41条1項の覚せい剤輸入罪は、領土への陸揚げの時点で既遂に達する。 第1 事案の概要:被告人らは、自ら運行を支配する小型船舶を用い、公海上で他の船舶から覚せい剤を受け取った。その後、当該覚せい剤を保持したまま本邦領海内に搬入したものの、陸…