少年A(当時16歳)が,少年B(当時15歳)及び少年C(当時17歳)から暴行を受け,3時間余り後に救急車で病院に搬送されたが,6日後に死亡した場合において,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,暴行が行われている現場に居た少年Y1,Y4及びY7(いずれも当時15歳)は,同少年らにAが死ぬかもしれないという認識があったとしても,救急車を呼んだり,第三者に通報するなど,Aを救護するための措置を執るべき法的義務を負っていたということはできない。 (1) Y1らは,いずれも,B及びCがAに暴行を加えていることや暴行に及んだ経緯を知らずに,B及びCに呼び出されて暴行が行われている現場に赴いたものであり,暴行の実行行為や共謀に加わっていないのみならず,積極的に暴行を助長するような言動も何ら行っていない。 (2) Y1らが,救急車を呼ばず,第三者に通報もしなかったのは,このことがB及びCに発覚して後日同人らから仕返しをされることを恐れたからであり,Y1らとB及びCとの関係や暴行の経過等からすると,そのような恐れを抱くのも無理からぬものがあった。 (3) 暴行が終わった後に,Cの指示により,Y1は,Aの体を移動させ,さらに,Y1らは,Aが気絶しているのを見付かりにくくするためであることを認識しながら,Aを壁にもたれかけさせて座らせたが,これもB及びCに対する恐れからしたものであるし,現場の状況等に照らすと,このことによってAの発見及び救護が格別困難になったということもできない。 (反対意見がある。)
少年Aが少年B及び少年Cから暴行を受けて死亡したことについて,暴行が行われている現場に居た少年Y1,Y4及びY7がAを救護するための措置を執るべき法的義務を負っていたとはいえないとされた事例
民法709条
判旨
暴行現場に居合わせた者が、加害者の畏怖から暴行を制止せず、かつ被害者の生命の危険を認識しながら救護措置を執らなかったとしても、特段の事情がない限り、直ちに不法行為上の救護義務を負うものではない。先行行為による危険の創出や増大が認められない場合、加害者からの仕返しの畏怖を克服してまで通報等を行うべき法的義務は認められない。
問題の所在(論点)
暴行の実行行為に関与せず、かつ加害者を畏怖している状況にあった同席者について、(1)暴行を制止すべき義務、および(2)被害者を救護・通報すべき条理上の作為義務が認められるか。
規範
不法行為法上、ある者に作為義務(救護義務・通報義務)が認められるためには、その者が結果発生の危険を創出した場合や、自己の行為によって被害者の救護を困難にするなど危険を増大させた場合などの特段の事情を要する。単に現場に居合わせたことや、心理的拘束(畏怖)がある状況下で救急車等の要請を怠ったことのみでは、直ちに作為義務を基礎付けることはできない。
重要事実
15〜16歳の少年らが、加害少年らによる被害者への激しい暴行(バックドロップ等)の現場に呼び出され、居合わせた。少年らは暴行を制止せず、加害者の指示で被害者を移動させ、頭から水をかけるなどしたが、これらは加害者への畏怖に基づくものであった。少年らは被害者が死ぬかもしれないと認識しつつ、仕返しを恐れて救急通報をせずに立ち去った。被害者はその後、別の知人の通報により搬送されたが死亡した。
あてはめ
(1)制止義務について:少年らは暴行の共謀をしておらず、積極的に助長する言動もなかった。加害者が少年らの前で格好をつけるために暴行をエスカレートさせた面はあるが、少年らにその認識があったとはいえず、制止義務は否定される。 (2)救護義務について:少年らは事情を知らずに呼び出されたにすぎず、加害者への畏怖から通報を躊躇したことは無理からぬ面がある。また、被害者の移動(本件移動行為)は発見を格別困難にしたとはいえず、危険を増大させたとは認められない。したがって、仕返しの恐れを克服してまで通報すべき法的義務を負うとまではいえない。
結論
被上告人(少年らおよびその親権者)らは、救護措置を執らなかったことについて不法行為上の責任を負わない。上告棄却。
実務上の射程
作為義務の発生要件として「先行行為による危険創出」の有無を厳格に判断する実務上の指針となる。特に、多人数が関与する少年事件等において、単なる「傍観者」や「心理的制約下にある同席者」に対してどこまで作為義務を認めるかの限界を示した事例として重要である。
事件番号: 平成17(受)882 / 裁判年月日: 平成18年2月24日 / 結論: 棄却
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