遺留分減殺請求を受けた受遺者が民法1041条1項の規定により遺贈の目的の価額を弁償する旨の意思表示をし,これを受けた遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償を請求する権利を行使する旨の意思表示をした場合には,その時点において,当該遺留分権利者は,遺留分減殺によって取得した目的物の所有権及び所有権に基づく現物返還請求権をさかのぼって失い,これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得する。
受遺者から民法1041条1項の規定による価額弁償の意思表示を受けた遺留分権利者が受遺者に対し価額弁償を請求する旨の意思表示をした場合において,当該遺留分権利者が遺贈の目的物について価額弁償請求権を確定的に取得する時期
民法1041条1項
判旨
遺留分減殺請求において受遺者が価額弁償の意思表示をした場合、遺留分権利者がこれに応じて価額弁償を請求する意思表示をした時点で、権利者は価額弁償請求権を確定的に取得する。したがって、当該請求に係る遅延損害金の起算日は、右請求をした日の翌日である。
問題の所在(論点)
受遺者が価額弁償の意思表示をした後、遺留分権利者が価額弁償を求める訴えの変更等により当該請求権を行使した場合において、価額弁償金の支払義務が発生する時期および遅延損害金の起算日はいつか。
規範
受遺者が価額弁償(旧民法1041条1項)の意思表示をした場合、遺留分権利者は受遺者に対し、現物返還請求権または価額弁償請求権のいずれかを選択して行使できる。権利者が価額弁償請求権を行使する旨の意思表示をしたときは、権利者は現物返還請求権を遡及的に失い、価額弁償請求権を確定的に取得する。その履行遅滞による遅延損害金の起算日は、当該請求権を確定的に取得し、かつ、受遺者に対し弁償金の支払を請求した日の翌日となる。
重要事実
遺留分権利者である上告人らが受遺者である被上告人らに対し、遺留分減殺に基づく不動産持分移転登記等を求めて提訴した。訴訟中、受遺者らが価額弁償をする旨の意思表示をしたため、上告人らは平成16年7月16日の口頭弁論期日において、訴えを交換的に変更し、価額弁償金の支払とその遅延損害金を請求した。原審は、弁償額が判決(事実審口頭弁論終結時基準)により定まることを理由に、判決確定日の翌日を起算日としたため、上告人らが上告した。
あてはめ
本件では、被上告人らが価額弁償の意思表示をした後、上告人らは平成16年7月16日に訴えを交換的に変更して金員の支払を求めている。この訴えの変更により、上告人らは価額弁償請求権を確定的に取得し、かつ、弁償金の支払を請求したものといえる。価額が最終的に裁判所により事実審口頭弁論終結時を基準として定められるとしても、義務の発生自体がその時点になるわけではない。したがって、被上告人らは同日の時点で適正な価額を弁償すべき義務を負い、その翌日から遅滞に陥る。
結論
価額弁償請求に係る遅延損害金の起算日は、訴えの変更により弁償金の支払を請求した日の翌日(平成16年7月17日)である。
実務上の射程
改正前民法の事案であるが、現行法(1042条以下)の遺留分侵害額請求権が金銭債権化された趣旨に鑑みれば、現行法下でも「請求した日の翌日」を起算日とする実務処理の有力な指針となる。答案上は、価額弁償の意思表示がなされた場合の権利の変容と、履行遅滞の一般的原則(期限の定めのない債務)を組み合わせて論じる際に用いる。
事件番号: 平成5(オ)342 / 裁判年月日: 平成9年7月17日 / 結論: その他
減殺請求をした遺留分権利者が遺贈の目的である不動産の持分移転登記手続を求める訴訟において、受遺者が、事実審口頭弁論終結前に、裁判所が定めた価額により民法一〇四一条の規定による価額の弁償をする旨の意思表示をした場合には、裁判所は、右訴訟の事実審口頭弁論終結時を算定の基準時として弁償すべき額を定めた上、受遺者が右の額を支払…
事件番号: 昭和53(オ)190 / 裁判年月日: 昭和57年3月4日 / 結論: 棄却
遺留分減殺請求権の行使の効果として生じた目的物の返還請求権等は、民法一〇四二条所定の消滅時効に服しない。
事件番号: 昭和50(オ)920 / 裁判年月日: 昭和51年8月30日 / 結論: 棄却
遺留分権利者が受贈者又は受遺者に対し民法一〇四一条一項の価額弁償を請求する訴訟における贈与又は遺贈の目的物の価額算定の基準時は、右訴訟の事実審口頭弁論終結の時である。