甲らが代表取締役等を務める会社の保管する廃棄物につき,乙がその処理を申し入れてきた際,甲らにおいて,乙や実際に処理に当たる者らが,上記廃棄物を不法投棄することを確定的に認識していたわけではないものの,不法投棄に及ぶ可能性を強く認識しながら,それでもやむを得ないと考えて乙にその処理を委託した場合,甲らは,その後乙を介して他の者により行われた上記廃棄物の不法投棄について,未必の故意による共謀共同正犯の責任を負う。
廃棄物の処理を委託した者が未必の故意による不法投棄罪の共謀共同正犯の責任を負うとされた事例
刑法60条,廃棄物の処理及び清掃に関する法律16条,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成16年法律第40号による改正前のもの)25条1項8号
判旨
廃棄物の処理に苦慮していた被告人らが、下請業者が不法投棄に及ぶ可能性を強く認識しながら、それでもやむを得ないと考えて委託した場合、未必の故意による共謀共同正犯が成立する。
問題の所在(論点)
実行行為を分担していない者が、共犯者による犯罪実行の可能性を認識しつつ、その発生を容認して委託等を行った場合に、未必の故意による共謀共同正犯(刑法60条)が成立するか。
規範
特定の犯罪行為を確定的に認識していなくても、自己の行為が共犯者による犯罪の実行を招く可能性を強く認識し、かつ、それでもやむを得ないと考えてこれを容認している場合には、未必の故意による共謀共同正犯が成立する。
重要事実
被告会社は、借地に保管中の硫酸ピッチ入りドラム缶の処理に苦慮していた。下請会社の代表者Bは、利益を得る目的で処理を請け負う旨を被告人らに執拗に申し入れた。被告人らは、Bや実際の処理業者が当該ドラム缶を不法投棄することを確定的に認識してはいなかった。しかし、被告人らは不法投棄に及ぶ可能性を強く認識しながら、それでもやむを得ないと考えてBに処理を委託し、その後、共犯者により実際に不法投棄が行われた。
事件番号: 平成17(あ)829 / 裁判年月日: 平成18年1月16日 / 結論: 棄却
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成15年法律第93号による改正前のもの)25条4号にいう「第12条第3項(中略)の規定に違反して,産業廃棄物の処理を他人に委託した」とは,上記12条3項所定の者に自ら委託する場合以外の,当該処理を目的とするすべての委託行為をいう。
あてはめ
被告人らは、ドラム缶の処分が困難であるという状況下で、不法投棄の可能性を「強く認識」していた。その上で、処理を委託するという判断を下したことは、不法投棄の結果を「やむを得ない」として容認していたといえる。したがって、被告人らとBとの間には、不法投棄という犯罪についての意思の疎通(共謀)があり、かつ未必の故意が認められるため、共犯者による実行行為について共謀共同正犯としての責任を負う。
結論
被告人らには、廃棄物処理法違反(不法投棄罪)について、未必の故意による共謀共同正犯が成立する。
実務上の射程
共謀共同正犯の成立に確定的な故意は不要であり、未必の故意で足りることを明示した。特に産廃事案等、委託側が現場の違法行為を黙認・容認して「丸投げ」した場合の刑事責任を追及する際の有力な論拠となる。
事件番号: 平成13(あ)817 / 裁判年月日: 平成14年7月15日 / 結論: 棄却
産業廃棄物の中間処分の許可しか受けていない会社の代表者が,当該会社の業務に関し,産業廃棄物約91.1tを産業廃棄物処理施設の斜面に放出し,その上に残土,真砂土を振りかけ,それらを混合し,地固めするなどして,原状に復するのが困難な状態にした行為は,産業廃棄物をもって上記斜面付近の地表及び地中の一部を形成する状態に至らせて…
事件番号: 昭和54(あ)1257 / 裁判年月日: 昭和55年11月7日 / 結論: 棄却
産業廃棄物処理業を営む協同組合の業務に関し廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和五一年法律第六八号による改正前のもの)二五条の違反行為をした同組合代表者を処罰するにあたつては、同条のほか同法二九条をも適用すべきである。
事件番号: 平成16(あ)1683 / 裁判年月日: 平成18年2月20日 / 結論: 棄却
工場から排出された産業廃棄物を,同工場敷地内に掘られた穴に投入して埋め立てることを前提に,その穴のわきに野積みした行為(判文参照)は,廃棄物の処理及び清掃に関する法律16条違反の罪に当たる。
事件番号: 平成17(あ)1899 / 裁判年月日: 平成18年2月28日 / 結論: 棄却
一般廃棄物収集運搬行の許可を受けた業者が,一般廃棄物たるし尿を含む汚泥と産業廃棄物たる汚泥を混合させた廃棄物を,一般廃棄物と装って市のし尿処理施設の受入口から投入した行為は,その混合物全量について,廃棄物の処理及び清掃に関する法律16条違反の罪に当たる。