1 マンションの住み込み管理員が所定労働時間の開始前及び終了後の一定の時間に断続的な業務に従事していた場合において,(1)使用者は,上記一定の時間内の各所定の時刻に管理員室の照明の点消灯,ごみ置場の扉の開閉,冷暖房装置の運転の開始及び停止等の業務を行うよう指示していたこと,(2)使用者が作成したマニュアルには,管理員は所定労働時間外においても,住民等から宅配物の受渡し等の要望が出される都度,これに随時対応すべき旨が記載されていたこと,(3)使用者は,管理員から定期的に業務の報告を受け,管理員が所定労働時間外においても上記要望に対応していた事実を認識していたことなど判示の事実関係の下では,上記一定の時間は,管理員室の隣の居室に居て実作業に従事していない時間を含めて,その間,管理員が使用者の指揮命令下に置かれていたものであり,労働基準法32条の労働時間に当たる。 2 マンションの住み込み管理員である夫婦が雇用契約上の休日である土曜日も使用者の指示により平日と同様の業務に従事していた場合において,使用者は,土曜日は1人体制で執務するよう明確に指示し,同人らもこれを承認していたこと,土曜日の業務量が1人では処理できないようなものであったともいえないことなど判示の事情の下では,土曜日については,同人らのうち1人のみが業務に従事したものとして労働時間を算定するのが相当である。 3 マンションの住み込み管理員が土曜日を除く雇用契約上の休日に断続的な業務に従事していた場合において,使用者が,管理員に対して,管理員室の照明の点消灯及びごみ置場の扉の開閉以外には上記休日に業務を行うべきことを明示に指示していなかったなど判示の事実関係の下では,使用者が上記休日に行うことを明示又は黙示に指示したと認められる業務に現実に従事した時間のみが労働基準法32条の労働時間に当たる。
1 マンションの住み込み管理員が所定労働時間の前後の一定の時間に断続的な業務に従事していた場合において,上記一定の時間が,管理員室の隣の居室に居て実作業に従事していない時間を含めて労働基準法上の労働時間に当たるとされた事例 2 マンションの住み込み管理員である夫婦が雇用契約上の休日である土曜日も管理員としての業務に従事していた場合において,土曜日については,夫婦のうち1人のみが業務に従事したものとして労働時間を算定するのが相当であるとされた事例 3 マンションの住み込み管理員が土曜日を除く雇用契約上の休日に断続的な業務に従事していた場合において,使用者が明示又は黙示に上記休日に行うことを指示したと認められる業務に現実に従事した時間のみが労働基準法上の労働時間に当たるとされた事例
(1〜3につき)労働基準法32条
判旨
労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労働時間に当たる。住み込み管理員が、指示やマニュアルに基づき、所定時間外も住民等の要望に随時対応すべき状態に置かれ、使用者がその実態を認識・黙示に指示していたといえる場合は、不活動時間を含め指揮命令下にあると解される。
問題の所在(論点)
不活動時間(実作業に従事していない待機時間等)が労働基準法32条の労働時間に該当するか。また、住み込み管理員による私的な外出(通院・犬の散歩等)の時間は労働時間から控除されるか。
規範
労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、不活動時間がこれに該当するか否かは、客観的に定まる。実作業に従事していない時間であっても、労働者が労働から離れることを保障されていない場合には、労働契約上の役務提供が義務付けられていると評価でき、指揮命令下に置かれている(労働時間に当たる)というべきである。
重要事実
マンション管理員として住み込みで勤務する夫婦(被上告人ら)は、会社から平日午前9時〜午後6時を所定労働時間と定められていたが、午前7時の開錠・照明点灯から午後10時の消灯・施錠等の業務も指示されていた。マニュアルには時間外も宅配物受渡し等に随時対応するよう記載があり、管理室隣の居室に待機しインターホン等に対応していた。会社は日報を通じてこの実態を認識していた。また、土曜日は「1人体制」の指示があったが、実際には2人で平日同様に勤務し、日曜・祝日は特定の断続的業務以外は指示されていなかった。
あてはめ
平日については、照明点灯から消灯までの間、住民等の要望に随時対応できるよう事実上待機せざるを得ず、会社もこれを認識し黙示に指示していたため、不活動時間を含め指揮命令下にある。土曜日も同様だが、会社が「1人体制」を明確に指示し業務量も1人で処理可能だった以上、1名分のみが労働時間となる。日曜日・祝日は、特定の断続的業務以外は役務提供が義務付けられておらず、労働からの解放が保障されているため、実作業時間のみが労働時間となる。なお、通院や犬の散歩は私的行為であり、住み込みであっても業務遂行に伴うものとはいえず、指揮命令下から離脱しているため労働時間には当たらない。
結論
平日の午前7時から午後10時(休憩除く)は不活動時間を含め労働時間に当たる。土曜日は同時間につき1名分のみ労働時間となる。日曜・祝日は現実に業務に従事した時間のみが労働時間となる。通院等の私的時間は労働時間から控除される。
実務上の射程
ビル・マンション管理等の「不活動時間(手待時間)」が長い事案において、明示・黙示の指示の有無、および「労働からの解放の保障」を検討する際のリーディングケースである。特に、住み込み特有の私的活動時間の峻別や、複数人勤務における会社の体制指示の有効性についても示唆を与えている。
事件番号: 平成9(オ)608等 / 裁判年月日: 平成14年2月28日
【結論(判旨の要点)】労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、不活動仮眠時間であっても、労働契約上の役務提供が義務付けられ、労働からの解放が保障されていない場合には労働時間に該当する。もっとも、仮眠時間が労働時間にあたるからといって直ちに労働契約上の賃金請求権が発生するわけではな…