判旨
労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、不活動仮眠時間であっても、労働契約上の役務提供が義務付けられ、労働からの解放が保障されていない場合には労働時間に該当する。もっとも、仮眠時間が労働時間にあたるからといって直ちに労働契約上の賃金請求権が発生するわけではなく、その支払有無は労働契約の合意内容によって定まる。
問題の所在(論点)
不活動仮眠時間が労働基準法32条の「労働時間」に該当するか。また、労働時間に該当する場合に、労働契約上の賃金請求権および同法37条の割増賃金請求権が当然に発生するか。
規範
労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない仮眠時間がこれに該当するか否かは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価できるか否かにより客観的に定まる。具体的には、当該時間において労働者が労働から離れることを保障されている場合には指揮命令下にないといえるが、労働契約上の役務提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、指揮命令下に置かれているものとして労働時間に該当する。
重要事実
ビル管理会社の技術員である原告らは、24時間の泊り勤務に従事していた。この勤務には連続7〜9時間の仮眠時間が設定されていたが、原告らは仮眠室での待機、警報や電話への即時対応を義務付けられ、外出や飲酒も禁止されていた。実作業が生じた場合には手当が支払われていたが、被告会社は、実作業のない不活動仮眠時間は労働時間ではないとして、泊り勤務手当(1回2300円等)を支払うのみで、割増賃金を支払っていなかった。原告らは、当該仮眠時間全体が労働時間であるとして、差額の割増賃金等を請求した。
あてはめ
原告らは、仮眠時間中であっても労働契約上の義務として仮眠室内での待機や警報等への即時対応を義務付けられており、実作業の必要性が皆無に近いなどの特段の事情も認められない。したがって、本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、役務提供が義務付けられていると評価できるため、労基法上の労働時間に当たる。次に、賃金請求権については、不活動仮眠時間に対する明確な賃金規定がなく、別途「泊り勤務手当」が支給されていたことや月給制であることを踏まえれば、不活動仮眠時間については同手当以外に賃金を支払わない旨の合意があったと解される。しかし、労基法上の労働時間に当たる以上、同法37条が定める割増賃金の基準を下回る部分は無効(同法13条)となり、不足する割増賃金の支払義務が生じる。
結論
本件仮眠時間は労働基準法上の労働時間に該当し、被告会社は不活動仮眠時間についても、労働契約上の賃金(泊り勤務手当等)が労基法37条所定の割増賃金額に達しない場合には、その差額を支払う義務を負う。
実務上の射程
ビルメンテナンス、警備、宿直等の仮眠時間が「労働時間」に該当するかを判断する際のリーディングケースである。答案では、単に「待機している」だけでなく「労働からの解放が保障されているか」という視点から、外出禁止、即時対応義務、場所的拘束性といった事実を摘示して指揮命令下にあるかを論じる。また、民事上の賃金請求権と労基法上の割増賃金請求権を区別して論じる際の参照モデルとなる。
事件番号: 平成17(受)384 / 裁判年月日: 平成19年10月19日 / 結論: 破棄差戻
1 マンションの住み込み管理員が所定労働時間の開始前及び終了後の一定の時間に断続的な業務に従事していた場合において,(1)使用者は,上記一定の時間内の各所定の時刻に管理員室の照明の点消灯,ごみ置場の扉の開閉,冷暖房装置の運転の開始及び停止等の業務を行うよう指示していたこと,(2)使用者が作成したマニュアルには,管理員は…