1 有罪認定に必要とされる立証の程度としての「合理的な疑いを差し挟む余地がない」というのは,反対事実が存在する疑いを全く残さない場合をいうものではなく,抽象的な可能性としては反対事実が存在するとの疑いをいれる余地があっても,健全な社会常識に照らしてその疑いに合理性がないと一般的に判断される場合には有罪認定を可能とする趣旨である。 2 有罪認定に必要とされる立証の程度としての「合理的な疑いを差し挟む余地がない」の意義は,直接証拠によって事実認定をすべき場合と情況証拠によって事実認定をすべき場合とで異ならない。
1 有罪認定に必要とされる立証の程度としての「合理的な疑いを差し挟む余地がない」の意義 2 有罪認定に必要とされる立証の程度としての「合理的な疑いを差し挟む余地がない」の意義は,直接証拠によって事実認定をすべき場合と情況証拠によって事実認定をすべき場合とで異なるか
(1,2につき)刑訴法317条,刑訴法318条,刑訴法333条1項
判旨
被告人が爆発物(過酸化アセトン)を製造し、それを他人に郵送・配送させたという公訴事実について、間接事実(爆発物の成分、製造方法の検索履歴、被告人の氏名が記載された封筒等)から被告人の犯人性を肯定した原判決の判断は、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証があるとして正当である。
問題の所在(論点)
直接的な目撃証言等の直接証拠が存在しない状況において、インターネットの閲覧履歴や配送物の外装・中身といった間接事実の積み重ねにより、被告人が爆発物を製造し配送させた犯人であると認定することが「合理的な疑いを超えた証明」として許容されるか。
規範
刑事裁判における事実認定において、直接証拠がない場合であっても、複数の間接事実を総合的に評価し、それらによって構成される事実関係が被告人を犯人と想定しなければ合理的な説明がつかない程度に達しているならば、合理的な疑いを超える証明がなされたものと解すべきである。いわゆる「疑わしきは被告人の利益に」の原則は、抽象的な可能性の存在によって直ちに有罪認定を妨げるものではなく、経験則に照らして合理的疑いを差し挟む余地がない程度の証明を求めるものである。
事件番号: 昭和62(あ)196 / 裁判年月日: 平成3年2月1日 / 結論: 棄却
爆発物取締罰則一条及び三条の「人ノ身体ヲ害セントスルノ目的」があるというためには、人の身体を害するという結果の発生を未必的に認識し、認容することをもって足り、右結果の発生に対する確定的な認識又は意図は要しない。
重要事実
被告人のパソコンから、過酸化アセトン(TATP)の製造方法や爆発物に関するインターネット検索履歴、及びクレジットカード決済を利用したカラープリンターの地図付案内ページの利用形跡が確認された。実際に配送されたプラスチックケース内には、強力な爆破力を有する分量のTATPと、それを用いた爆発物が存在していた。さらに、当該爆発物が配送された際の封筒には被告人の氏名が記載されており、外装や梱包状況から、被告人が製造・郵送に関与したことが強く推認される状況にあった。
あてはめ
まず、被告人の端末に爆発物製造に関する詳細な検索履歴が残っていることは、被告人に製造の知識と意図があったことを強く推認させる。次に、実際に届けられた爆発物の成分(TATP)がその検索内容と合致し、かつ配送用封筒に被告人の氏名等の属性情報が含まれていた事実は、被告人と本件犯行との結びつきを極めて密接にするものである。これらの事実を総合すれば、第三者によるなりすまし等の抽象的な可能性を考慮しても、被告人以外の者がこれら一連の行動を行ったと想定することには合理的な根拠がないといえる。したがって、経験則上、被告人が犯人であることにつき合理的な疑いを入れる余地のない程度の証明がなされていると評価される。
結論
被告人を犯人と認定した原判決の事実認定に不合理な点はなく、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の証明があるとした判断は正当である。
実務上の射程
間接証拠のみによる犯人性認定の可否および「合理的な疑い」の具体的判断基準。
事件番号: 昭和57(あ)1761 / 裁判年月日: 昭和62年3月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】爆発物取締罰則の合憲性、死刑制度の残虐刑該当性、および被告人の訴訟態度等を量刑事情として考慮することの正当性を認めた。 第1 事案の概要:被告人らは、連続企業爆破事件等に関与し、爆発物取締罰則違反や殺人等の罪に問われた。一審および二審において被告人C・Dには死刑、被告人Aには無期懲役が言い渡された…
事件番号: 平成8(あ)830 / 裁判年月日: 平成9年8月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】爆発物取締罰則は現在も法律としての効力を有し、「治安ヲ妨ケ」るという構成要件も明確性の原則に反せず、かつ定められた刑罰が残虐な刑罰に当たったり思想差別を目的としたりするものではない。 第1 事案の概要:被告人らは、爆発物取締罰則違反等の罪で起訴された。これに対し、被告人側は、同罰則が明治17年太政…
事件番号: 昭和63(あ)682 / 裁判年月日: 平成6年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】極めて凶悪な無差別大量殺人事件において、その犯行態様の悪質さや結果の重大性を鑑みれば、死刑の選択は正当として是認される。 第1 事案の概要:被告人は他の者と共謀の上、無差別大量殺人を企図し、手製の時限爆弾を周到に準備した。これを北海道庁庁舎内に仕掛けて爆発させ、その結果、2名の生命を奪い、81名に…