判旨
特許法17条の2第5項2号所定の「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に、新たな技術的事項を付加する補正が含まれる場合、当該補正は同号に適合せず不適法である。かかる補正を含む却下決定後の審決に対しては、補正の不適法を理由として取消しを求めることができる。
問題の所在(論点)
特許法17条の2第5項2号に規定される補正の要件である「特許請求の範囲の減縮」の意義、および同要件を欠く補正がなされた場合の法的取り扱いが問題となった。
規範
特許法17条の2第5項2号にいう「特許請求の範囲の減縮」とは、補正後の特許請求の範囲が、補正前の請求項に記載された発明を特定するための事項の一部を限定するものであり、かつ、補正後の発明の産業上の利用分野および解決しようとする課題が補正前のものと同一であるものをいう。また、特許法126条1項ただし書等に照らし、補正が独立して特許を受けられるものであること(独立特許要件)も必要とされる。したがって、実質的に新たな技術的事項を付加し、発明の内容を拡張・変更するような補正は、たとえ形式的に請求項の記載を限定するものであっても、同号の補正には当たらない。
重要事実
本件発明は、特定のロール構成を有するゴムロールカレンダーの材料投入・搬送方法に関するものである。特許庁は、本件特許出願の拒絶査定不服審判において、原告が行った補正(本件補正)を却下した。本件補正は、元の請求項に記載されたゴムロールの配置等の構成に対し、さらに特定のロール位置関係や搬送順序に関する詳細な限定(構成イ、ロ、ハ、ニ)を加えるものであった。特許庁は、これが実質的に発明の技術的内容を限定・変更するものであるとして「減縮」に当たらないと判断し、補正を却下した上で拒絶審決を下した。これに対し、原告が審決取消訴訟を提起した事案である。
あてはめ
本件補正のうち構成イおよびロは、当初の請求項に記載されていなかった特定のロール配置や材料の投入方法を付加するものである。これは単に特許請求の範囲を限定するにとどまらず、新たな技術的事項を導入して発明の具体的な態様を特定し直すものといえる。このような補正は、補正前の発明の同一性を維持しつつその範囲を狭めるという「減縮」の本旨に反し、発明の要旨を変更するものである。また、追加された事項によって技術的課題や解決手段の同一性が損なわれるおそれがある。したがって、本件補正は同項2号の要件を満たさない。
結論
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められないため、特許法17条の2第5項2号に違反する。よって、当該補正を却下した特許庁の判断は適法であり、これを前提とした拒絶審決も正当であるとして、原告の請求を棄却すべきである。
実務上の射程
特許補正の限界を画するリーディングケースである。答案上は、補正が「減縮」に当たるか否かの判断において、単なる形式的な文言の追加(限定)だけでなく、技術的事項の付加による「要旨変更」の有無を確認する枠組みとして活用する。特に、進歩性欠如を回避するために詳細な構成を後から付け加える補正を否定する際の強力な根拠となる。
事件番号: 平成8(行ツ)265 / 裁判年月日: 平成11年3月9日
【結論(判旨の要点)】特許異議申立ての決定に、決定の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある場合には、これを取り消すべきである。明細書の訂正が認められた結果、特許掲載公報の記載と異なる構成となった事案において、その適法性を判断せずに異議を却下した判断には違法がある。 第1 事案の概要:特許権者である相手方が「ディ…