厚生年金保険の被保険者であった叔父と姪との内縁関係が,叔父と先妻との子の養育を主たる動機として形成され,当初から反倫理的,反社会的な側面を有していたものとはいい難く,親戚間では抵抗感なく承認され,地域社会等においても公然と受け容れられ,叔父の死亡まで約42年間にわたり円満かつ安定的に継続したなど判示の事情の下では,近親者間における婚姻を禁止すべき公益的要請よりも遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという厚生年金保険法の目的を優先させるべき特段の事情が認められ,上記姪は同法に基づき遺族厚生年金の支給を受けることのできる配偶者に当たる。 (反対意見がある。)
厚生年金保険の被保険者であった叔父と内縁関係にあった姪が厚生年金保険法に基づき遺族厚生年金の支給を受けることのできる配偶者に当たるとされた事例
厚生年金保険法3条2項,厚生年金保険法59条1項,民法734条1項
判旨
三親等内の傍系血族間(おじ・姪等)の内縁関係であっても、形成過程や生活実態等に照らし、反倫理性・反公益性が著しく低いと認められる特段の事情がある場合には、遺族厚生年金法上の「配偶者」に該当する。
問題の所在(論点)
民法734条1項により婚姻が禁止される三親等内の傍系血族間(おじと姪)の内縁関係にある者が、厚生年金保険法3条2項にいう「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」として遺族厚生年金の受給権者に該当するか。
規範
厚生年金保険法上の「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」(3条2項)は、遺族の生活安定という目的から内縁の配偶者を含むが、公的年金制度の性格上、婚姻法秩序に反する者は一般に除外される。もっとも、三親等内の傍系血族間の内縁については、①形成の経緯、②周囲や地域の受け止め方、③共同生活期間、④子の有無、⑤夫婦生活の安定性等を総合考慮し、反倫理性・反公益性が婚姻法秩序維持の観点から問題とする必要がない程度に著しく低いと認められる「特段の事情」がある場合には、同法上の配偶者に当たると解すべきである。
事件番号: 平成16(行ヒ)332 / 裁判年月日: 平成17年4月21日 / 結論: 棄却
私立学校教職員共済法に基づく退職共済年金の受給権者であった男性が死亡した場合において,同男性が法律上の妻と20年以上の長期にわたり別居を続け,その間,両者の間には反復,継続的な交渉はなく,婚姻関係修復の努力もされていないなど両者の婚姻関係は実体を失って修復の余地がないまでに形がい化しており,他方,両者の別居後に同男性と…
重要事実
厚生年金保険の被保険者であったA(おじ)と、その姪である上告人は、昭和30年代末から約42年間にわたり内縁関係にあった。関係形成の動機は、Aの先妻との子(D)の養育(ネグレクト状態の解消)にあり、親族の勧めで媒酌人を立てて祝宴を行い、地域社会や勤務先でも公然と夫婦として受け入れられていた。二人の間には実子も二人おり、Aは認知も行っていた。行政手続上も健康保険の被扶養者や配偶者控除の対象として扱われ、円満な家族生活を継続していたが、Aの死亡に伴う遺族厚生年金の請求に対し、三親等の近親婚禁止(民法734条1項)に触れる内縁であることを理由に不支給処分を受けた。
あてはめ
本件内縁関係は、先妻の子の養育という正当な動機に基づき、媒酌人の選定や祝宴を経て親族・地域社会に承認されており、当初から反倫理的側面は乏しい。また、42年という長期間にわたり安定した共同生活を送り、認知した実子も得ている。さらに、税制や社会保険実務においても長年「妻」として公的に扱われていた。これらの事情を総合すれば、本件関係の反倫理性・反公益性は、婚姻法秩序維持の観点から問題とする必要がない程度に著しく低いというべきであり、法が保護を予定する「特段の事情」が認められる。
結論
上告人は厚生年金保険法3条2項の「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に該当し、遺族厚生年金の受給権を有する。本件不支給処分は違法であり、取り消されるべきである。
実務上の射程
重婚的内縁や近親者間の内縁について、形式的な婚姻法秩序との抵触のみで一律に保護を否定せず、個別具体的な生活実態や社会的承認を重視して受給権を認める判断枠組みを示した。答案上は、社会保障給付の趣旨(生活保障)と民法上の婚姻秩序(公益的要請)の調整場面で、本判決の「特段の事情」の考慮要素を援用する。
事件番号: 昭和54(行ツ)109 / 裁判年月日: 昭和58年4月14日 / 結論: 棄却
戸籍上届出のある妻が、夫と事実上婚姻関係を解消することを合意したうえ、夫の死亡に至るまで長期間別居し、夫から事実上の離婚を前提とする養育料等の経済的給付を受け、婚姻関係が実体を失つて形骸化し、かつ、その状態が固定化し、一方、夫が他の女性と事実上の婚姻関係にあつたなど判示のような事情があるときは、右妻は、農林漁業団体職員…
事件番号: 平成27(行ツ)375 / 裁判年月日: 平成29年3月21日 / 結論: 棄却
地方公務員災害補償法32条1項ただし書及び附則7条の2第2項のうち,死亡した職員の夫について,当該職員の死亡の当時一定の年齢に達していることを遺族補償年金の受給の要件としている部分は,憲法14条1項に違反しない。
事件番号: 令和4(行ツ)318 / 裁判年月日: 令和6年3月26日 / 結論: 破棄差戻
犯罪被害者と同性の者は、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律5条1項1号括弧書きにいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者」に該当し得る。 (補足意見及び反対意見がある。)
事件番号: 昭和52(行ツ)40 / 裁判年月日: 昭和53年11月20日 / 結論: 棄却
労働者災害補償保険法上の遺族補償年金の受給権取得前から直系血族又は直系姻族以外の者の事実上の養子であつた者が右受給権取得後養子縁組の届出をして右直系血族又は直系姻族以外の者の法律上の養子となつたときは、同法一六条の四第一項三号所定の「養子となつたとき」にあたり、右受給権は消滅する。