意思無能力者に代わって相続税を申告し納付した者について,法定代理人又は相続開始後に選任される後見人のいない意思無能力者には相続税申告書の提出義務がなく,所轄税務署長による相続税法(平成4年法律第16号による改正前のもの)35条2項1号に基づく税額の決定がされることもないという誤った解釈を前提として,事務管理に基づく費用償還請求を棄却した原審の判断には,違法がある。
意思無能力者に代わって相続税を申告し納付した者の事務管理に基づく費用償還請求を棄却した原審の判断に違法があるとされた事例
民法697条1項,民法702条1項,相続税法(平成4年法律第16号による改正前のもの)35条2項1号
判旨
意思無能力者であっても相続税の申告義務自体は発生しており、また相続税法35条2項1号による税務署長の決定の対象にもなり得る。したがって、親族等が意思無能力者に代わって行った相続税の申告・納付は、直ちに「本人の利益に適合」しないとはいえず、事務管理(民法702条1項)に基づく費用償還請求が認められる余地がある。
問題の所在(論点)
意思無能力者のために行われた相続税の申告・納付が、民法702条1項にいう「本人の利益に適合」するか。特に、意思無能力者に申告義務や税務署長による決定の蓋然性が認められるかが問題となる。
規範
1. 事務管理(民法702条1項)の成立には、管理が「本人の利益に適合」することが必要である。 2. 相続税法27条1項の申告義務は、意思無能力者であっても納付すべき税額がある以上、法定代理人の有無にかかわらず発生する(期限が到来しないにすぎない)。 3. 相続税法35条2項1号に基づく税務署長の決定は、適正な徴収の観点から設けられた特則であり、申告期限に関わらず被相続人の死亡から6か月経過により可能となる。これは意思無能力者に対しても適用される。
重要事実
1. 被相続人Aの妻Bは、A死亡時に意思無能力であり、後見人も選任されていなかった。 2. Aの子Cは、Bの法定代理人ではないが、Bに代わって相続税の申告(本件申告)を行い、銀行からB名義で借り入れた金員で税額を納付(本件納付)した。 3. 本件納付は、A死亡の翌日から6か月を経過した日に行われた。 4. Cの相続人(上告人)が、Bの相続人ら(被上告人)に対し、事務管理に基づく費用償還を請求した。
あてはめ
1. Bは意思無能力者であるが、相続税法27条1項により申告義務自体は発生していたといえる。 2. また、相続税法35条2項1号は意思無能力者にも適用されるため、昭和63年3月8日の経過後は、税務署長がBの税額を決定(決定処分)することが可能であったといえる。 3. そうであれば、Cによる本件申告・納付は、Bが将来受けるべき決定処分や付随する不利益を回避する側面があり、直ちにBの利益に反するものとはいえない。 4. したがって、本件申告・納付がBの利益にかなう可能性が認められる。
結論
本件申告・納付がBの利益にかなわないとした原判決には法令の違反がある。事務管理の成否(C自身が費用を支出したか等)をさらに審理させるため、原審に差し戻す。
実務上の射程
判決文からは不明(事務管理の成立要件のうち「本人の利益適合性」の前提となる公法上の義務の解釈に限定して判断されている)。
事件番号: 平成7(オ)2468 / 裁判年月日: 平成11年7月19日 / 結論: 破棄差戻
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