市が,勧奨により退職した職員が市のあっせんにより再就職した場合には再就職先での給与額を一定の期間退職時の給与月額と同額とする旨の内部基準に基づき,退職した職員の再就職先の団体に対し給与の差額分を業務委託費の名目で支出したが,支出の外形からは市の一般住民においてその実質的な内容を知ることができない場合において,地方有力紙が上記基準の内容とそれに基づく支出が市議会議員らから問題視されている状況を報道し,記事の中で既に上記基準により上記支出の年度に再就職した職員がいたことに触れていたにもかかわらず,上記報道の約6か月後に上記支出について住民監査請求がされたなど判示の事実関係の下では,同住民監査請求が上記支出の日から1年を経過した後にされたことについて,地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由があるとはいえない。 (反対意見がある。)
外形からは実質的な内容を知ることができない公金の支出につきその支出の日から1年を経過して住民監査請求がされたことについて地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由があるとはいえないとされた事例
地方自治法242条2項
判旨
住民監査請求の期間制限における「正当な理由」の有無は、住民が相当の注意力をもって調査すれば財務会計上の行為の存在及び内容を客観的に知り得た時から、相当な期間内に請求したか否かで判断される。本件では、外形上秘匿された支出であっても、有力地方紙による具体的な報道がなされた時点をもって「知り得た時」と解するのが相当である。
問題の所在(論点)
住民監査請求が財務会計上の行為から1年を経過してなされた場合において、新聞報道がなされたことをもって「相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて当該行為の存在及び内容を知ることができた」といえるか。また、その後の議会での説明や他紙の誤報がその判断を左右するか。
規範
地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」の有無は、住民が相当の注意力ををもって調査を尽くしても、客観的にみて監査請求をするに足りる程度に財務会計上の行為の存在または内容を知ることができなかったといえるかによって判断する。具体的には、住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記程度に当該行為を知ることができたと解される時から、相当な期間内に監査請求をしたか否かにより判断すべきである。
事件番号: 平成14(行ヒ)325 / 裁判年月日: 平成17年12月15日 / 結論: 破棄自判
市の局長等が出席した会合に係る220件余の食糧費の各支出について支出の日から1年を経過した後に住民監査請求がされた場合において,住民団体が市の情報公開条例に基づく公開請求をした結果,上記監査請求の約4か月弱前には,上記各支出を含む1年度分の食糧費支出に関し個別の支出の日,金額,その内訳及び債権者名並びに支出に係る会合の…
重要事実
鎌倉市は、定年前に勧奨退職して外郭団体へ再就職した職員に対し、退職時の給与額を保証するため、業務委託費の名目で人件費差額を支出した(本件支出)。本件支出は業務委託料という外形で行われたが、平成12年4月28日付の神奈川新聞において、市が再就職者の給与を100%保証する制度を実施していること、公園協会に再就職した者がいること等が詳細に報じられた。住民(上告人)は、当該報道から約6か月後の同年10月27日に住民監査請求を行った。
あてはめ
本件支出は業務委託費の名目であり、外形からは実質的内容を知ることはできない。しかし、神奈川県内の有力紙である神奈川新聞において、給与保証制度の存在、再就職先の団体名、対象者の職位、補助の仕組み等が8段にわたる大きな記事で具体的に報じられていた。この報道は市の一般住民において容易に閲読可能であったといえる。したがって、報道がなされた平成12年4月28日ころには、住民が相当の注意力をもって調査すれば、監査請求をするに足りる程度に本件支出の存在・内容を知ることができたと解される。住民はそれから約6か月を経過して請求しており、「相当な期間内」の請求とは認められない。なお、一部の全国紙に誤報があったことや、市議会での具体的な説明が同年9月であったという事情は、上記判断を左右しない。
結論
本件住民監査請求には「正当な理由」があるとは認められず、法定の期間制限を徒過したものとして不適法である。
実務上の射程
行政側が偽装的な費目で支出を行っている場合でも、マスコミ等の有力な情報源で具体的に報じられた場合には、住民の知るべき時期が前倒しされることを示した。答案上は、情報の具体性と到達可能性(有力紙か否か等)を指標に「相当な注意力」の内容を検討する際に用いる。
事件番号: 平成15(行ヒ)299 / 裁判年月日: 平成18年1月19日 / 結論: その他
県が,県議会議員の職にあった者の功労に報いるとともにその者らに引き続き県政の発展に寄与してもらう趣旨で,その者らのうち会則の趣旨に賛同する者を会員とする元県議会議員会の事業を補助するために補助金を交付した場合において,同補助金の対象となった事業がいずれも同会の会員を対象とした内部的な行事等であってその事業自体に公益性を…
事件番号: 平成18(行ヒ)168 / 裁判年月日: 平成20年3月17日 / 結論: 破棄差戻
県警察本部の県外出張に係る旅費の支出について住民監査請求がされた場合において,当該住民が県の情報公開条例に基づき上記出張に関する資料の開示を求めたところ,当初は,上記出張の旅行期間,目的地,用務等の事項が開示されず,その部分開示決定に対する異議申立ての結果,初めてこれらの事項が開示されるに至り,その1か月後に上記監査請…
事件番号: 平成17(行ヒ)304 / 裁判年月日: 平成20年1月18日 / 結論: 破棄差戻
普通地方公共団体が,土地開発公社との間で締結した土地の先行取得の委託契約に基づく義務の履行として,当該土地開発公社が取得した当該土地を買い取る売買契約を締結する場合であっても,次の(1)又は(2)のときには,当該売買契約の締結は違法となる。 (1) 上記委託契約を締結した普通地方公共団体の判断に裁量権の範囲の著しい逸脱…