市の施行する予定の土地区画整理事業は違法であると主張し,市作成の平成13年度一般会計歳入歳出決算書の抜粋等を添付して,同年度に同事業のために支出された公金を市に返還し,今後もこのような不当,違法な事業に対し公金を支出しないよう適切な措置を求める旨の住民監査請求につき,1 上記事業にかかわる公金の支出を全体として一体とみてその違法性又は不当性を判断するのを相当とする場合に当たること,2 上記監査請求において返還を求めるべきであるとされた公金の支出が上記決算書の抜粋に特定の経費として記載されたものを指すことは明らかで,監査委員において各支出行為を容易に把握することができること,3 上記事業を特定することにより差止めの対象となる公金支出の範囲も識別することができること,4 上記監査請求の時点では事業計画の決定及び公告がされていなかったとはいえ,土地区画整理事業の都市計画決定がされて施行区域も定まり,市の事業計画(案)も縦覧に供され,施行規程も制定されるという段階に至っており,差止めの対象となる公金支出がされることが相当の確実性をもって予測されるかどうかの判断も可能であったことなど判示の事情の下においては,上記監査請求は,請求の対象の特定に欠けるところはない。
市の施行する予定の土地区画整理事業が違法であると主張して同事業のために支出された公金の返還及び同事業に対する公金支出の差止めを求める住民監査請求が請求の対象の特定に欠けるところはないとされた事例
地方自治法242条1項,地方自治法242条の2第1項
判旨
住民監査請求の対象は、他の事項から区別して特定・認識できる程度に摘示されていれば足り、特定の事業全体が違法であるとして経費支出の差止め等を求める場合、当該事業を特定すれば個別の支出を逐一摘示せずとも特定を欠くものではない。
問題の所在(論点)
住民監査請求(地方自治法242条1項)において、複数の支出行為や将来の支出を対象とする場合、どの程度の個別具体化(特定)が求められるか。また、事業計画決定前の事業に関する支出も差止めの対象として特定可能か。
規範
住民監査請求の対象の特定は、監査請求書及び添付書類等を総合し、監査委員が対象を認識できる程度であれば足りる。特に特定の事業の実施自体が違法・不当であるとして関連経費全体の支出を争う場合、当該事業を特定することで対象行為とそれ以外との識別が可能であり、かつ支出を一体として判断することが相当といえるため、個別の支出を逐一摘示せずとも特定を欠かない。将来の支出の差止めについては、これに加えて、当該行為がなされることが相当の確実さをもって予測可能な程度に特定されていることを要するが、事業計画案の縦覧や施行規程の制定等の段階に至っていれば、この予測可能性も認められる。
事件番号: 平成16(行ヒ)61 / 裁判年月日: 平成18年6月1日 / 結論: 棄却
市が,勧奨により退職した職員が市のあっせんにより再就職した場合には再就職先での給与額を一定の期間退職時の給与月額と同額とする旨の内部基準に基づき,退職した職員の再就職先の団体に対し給与の差額分を業務委託費の名目で支出したが,支出の外形からは市の一般住民においてその実質的な内容を知ることができない場合において,地方有力紙…
重要事実
東京都羽村市が施行する土地区画整理事業(本件事業)に対し、住民が、事業自体が憲法や都市計画法等に違反するとして、既支出分の返還請求及び将来の公金支出の差止めを求める住民監査請求を行った。請求書には、前年度決算書を添付し「事業に要する経費」の総額を記載したが、個々の支出の日時や支出先は明記していなかった。また、請求時点では土地区画整理法上の事業計画決定前(案の縦覧中)であったため、原審は請求対象の特定を欠き不適法であると判断した。
あてはめ
本件では、住民は本件事業自体の違法性を主張して関連支出全体の是正を求めており、支出を一体として判断するのが相当である。添付の決算書には「本件事業に要する経費」の項目があり、他の支出との区別は可能である。監査委員は担当部署への確認等により各支出を容易に把握できるため、特定に欠けるところはない。また、請求時点で事業計画の正式決定前であっても、都市計画決定済で事業計画案が縦覧される等、事業実施に向けた具体的準備が進んでいる以上、支出がなされることの相当の確実な予測も可能であり、将来の支出の特定も認められる。
結論
本件住民監査請求には対象の特定に欠けるところはなく、適法な監査請求を経たものとして、住民訴訟(地方自治法242条の2第1項)の適法性が認められる。
実務上の射程
本判決は住民監査請求の「特定」の要件を緩和し、監査委員による実質的な調査の可能性を重視する。司法試験の答案上は、個別の支出行為を絞り込めない場合でも、対象となる「事業」や「目的」が明確であれば、一体的な判断の相当性を論じることで特定を肯定する論理として活用できる。
事件番号: 平成1(行ツ)68 / 裁判年月日: 平成2年6月5日 / 結論: 棄却
一 住民監査請求は、その対象とする財務会計上の行為又は怠る事実を他の事項から区別し、特定して認識できるように個別的、具体的に摘示し、また、右行為等が複数である場合には、右行為等の性質、目的等に照らしこれらを一体とみてその違法又は不当性を判断するのを相当とする場合を除き、各行為等を他の行為等と区別し、特定して認識できるよ…
事件番号: 平成17(行ヒ)304 / 裁判年月日: 平成20年1月18日 / 結論: 破棄差戻
普通地方公共団体が,土地開発公社との間で締結した土地の先行取得の委託契約に基づく義務の履行として,当該土地開発公社が取得した当該土地を買い取る売買契約を締結する場合であっても,次の(1)又は(2)のときには,当該売買契約の締結は違法となる。 (1) 上記委託契約を締結した普通地方公共団体の判断に裁量権の範囲の著しい逸脱…
事件番号: 平成22(行ツ)300 / 裁判年月日: 平成23年12月15日 / 結論: その他
滋賀県選挙管理委員会の委員長以外の委員について月額報酬を定める滋賀県特別職の給与等に関する条例(昭和28年滋賀県条例第10号。平成23年滋賀県条例第17号による改正前のもの)4条,別表2の規定は,地方自治法203条の2第2項が滋賀県議会に与えた裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものとして違法,無効であるとはいえない。…
事件番号: 平成22(行ヒ)136 / 裁判年月日: 平成24年4月23日 / 結論: 破棄差戻
1 住民訴訟の対象とされている普通地方公共団体の損害賠償請求権を放棄する旨の議会の議決がされた場合において,当該請求権の発生原因である公金の支出等の財務会計行為等の性質,内容,原因,経緯及び影響(その違法事由の性格や当該職員の帰責性等を含む。),当該議決の趣旨及び経緯,当該請求権の放棄又は行使の影響,住民訴訟の係属の有…