判旨
不当労働行為救済命令で労働組合への金員支払が命じられた際、当該組合が自然消滅して活動実体を失った場合には、命令の拘束力は失われ、その取消しを求める訴えは訴えの利益を欠き却下される。救済命令は公法上の義務を課すものであり、組合に私法上の請求権を与えるものではないため、清算法人として存続していても支払を受ける適格は認められない。
問題の所在(論点)
労働組合への金員支払を命ずる救済命令が出された後、当該労働組合が自然消滅して組合活動をする団体として存続しなくなった場合、当該救済命令の拘束力は維持されるか。また、その取消しを求める訴えの利益が認められるか(行政事件訴訟法9条1項)。
規範
1. 労働委員会による救済命令は、不当労働行為によって生じた侵害状態を是正し、不当労働行為がなかったと同様の状態を回復することを目的とするものである。したがって、救済の対象たる労働組合が自然消滅し、組合活動をする団体として存続しなくなった場合には、もはや侵害状態を是正する余地はなく、命令の拘束力は失われる。 2. 救済命令は使用者に国に対する公法上の義務を負担させるものであり、これに対応した私法上の請求権を労働組合に取得させるものではない。ゆえに、清算法人として存続しているとしても、金員の受領が清算の目的の範囲に属するということはできず、当該法人は受領適格を欠く。 3. 上記の場合、使用者が当該命令の取消しを求める法律上の利益(訴えの利益)は消滅する。
重要事実
1. ネッスル日本労働組合日高支部(以下「支部」)は法人格を取得していたが、組合員全員の脱退および工場の営業譲渡により、労働組合としての活動実体を失い自然消滅した。 2. 労働委員会は、上告人(会社)に対し、支部から控除した組合費相当額等の金員を支部に支払うよう命じる救済命令(本件命令)を発していた。 3. 会社は本件命令の取消しを求めて提訴したが、原審は、支部が清算の目的の範囲内で存続している以上、命令は有効であるとして請求を棄却したため、会社が上告した。
あてはめ
1. 支部は組合員が零名となり、工場施設も譲渡されたことで、組合活動をする団体としては自然消滅したといえる。この状態では、会社に金員を支払わせても不当労働行為による侵害状態の是正という救済の目的を達することはできない。 2. 救済命令は公法上の義務を課すにすぎず、支部に私法上の請求権を与えるものではない。したがって、法人が清算目的の範囲で存続していても、金員受領適格があるとはいえない。 3. 以上の事実から、本件命令のうち金員支払を命じた部分は既に拘束力を失っており、会社がその取消しを求める法律上の利益は失われていると判断される。
事件番号: 平成4(行ツ)120 / 裁判年月日: 平成7年2月23日 / 結論: その他
組合員が存在しなくなったことなどにより労働組合が自然消滅した場合には、その組合が清算法人として存続していたとしても、使用者に対し右組合への金員の支払を命じていた救済命令の拘束力は失われ、その結果、右命令の取消しを求める訴えの利益は失われる。
結論
本件命令のうち、消滅した支部への金員支払を命じた部分の拘束力は失われており、その取消しを求める訴えは訴えの利益を欠く不適法なものとして却下すべきである。
実務上の射程
労働委員会による救済命令の法的性質が「公法上の義務」を課す形成・命令的処分であることを明示した重要判例。訴えの利益の有無を論じる際、救済の目的が達成不能になった点や、権利義務の帰属主体としての適格性を欠く点から論理を組み立てる際の指針となる。また、いわゆる「ポスト・ノーティス(陳謝文掲示命令)」については、思想良心の自由(憲法19条)に反しないとする従来の判例を維持しており、裁量権の範囲内であるかの判断基準としても参照される。
事件番号: 平成3(行ツ)91 / 裁判年月日: 平成7年2月23日
【結論(判旨の要点)】チェック・オフ中止の申入れを無視した継続は支配介入の不当労働行為に当たるが、その救済として控除済みの組合費相当額を直接組合に支払うよう命ずることは、労働委員会の裁量権を逸脱し違法である。 第1 事案の概要:会社には内部抗争により「参加人組合」と「訴外組合」が併存していた。参加人組合員は会社に対しチ…
事件番号: 平成22(行ヒ)46 / 裁判年月日: 平成24年4月27日 / 結論: 破棄差戻
所有する船舶の一部につき船舶運航代理業者を傭船者とする裸傭船契約と自らを傭船者とする定期傭船契約を締結するとともに労働協約の更新を拒否するなどした使用者の行為が不当労働行為に当たるとの労働組合からの申立てを受けた労働委員会が,当該使用者に対し,(1)上記各契約に係る船舶を自らの運航業務に使用する場合は当該労働組合の組合…
事件番号: 昭和56(行ツ)205 / 裁判年月日: 昭和60年7月19日 / 結論: その他
一 法律上独立した権利義務の帰属主体でない法人組織の構成部分は、労働組合法二七条及び七条所定の使用者に当たらない。 二 法律上独立した権利義務の帰属主体でない法人組織の構成部分を名宛人とする救済命令は、当該法人に対し命令の内容を実現することを義務付けるものとして、効力を有する。 三 法律上独立した権利義務の帰属主体でな…
事件番号: 平成3(行ツ)91 / 裁判年月日: 平成7年2月23日 / 結論: その他
甲労働組合の内部抗争によりそれぞれ甲組合と同一名称を名乗る乙組合と丙組合とが併存するに至った後に、使用者が、甲組合とのいわゆるチェック・オフ協定に基づき、乙組合の組合員から組合費のチェック・オフを行い、これを丙組合に交付したことが不当労働行為に当たる場合であっても、右組合費相当額を、組合員個人に対してではなく、乙組合に…