判旨
転勤命令は、業務上の必要性があり、不当な動機・目的がなく、労働者の被る不利益が社会通念上甘受すべき程度を著しく超えない限り、権利の濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
使用者の転勤命令権の行使が、いかなる場合に権利の濫用(労働契約法3条4項、民法1条3項参照)として違法となるか。
規範
労働契約上の根拠がある転勤命令は、原則として使用者の裁量に属するが、①業務上の必要性がない場合、②不当な動機・目的をもってなされた場合、又は③労働者が受ける不利益が社会通念上甘受すべき程度を著しく超えるものである場合には、権利の濫用として無効となる。
重要事実
上告人A(労働者)は、被上告人(会社)の東京第一営業所から名古屋営業所への転勤を命じられた。Aはこの転勤命令が不当な目的であるとし、また自身の家庭状況等に照らして不利益が過大であると主張して、命令の違法性(債務不履行または不法行為)を争った。なお、原審の認定によれば、本件命令には業務上の必要性が認められていた。
あてはめ
本件転勤命令は、①名古屋営業所への配置が必要であるという業務上の必要性に基づいている。また、②嫌がらせ等の不当な動機や目的は認められない。さらに、③東京から名古屋への転居に伴う上告人らの経済的、社会的、精神的不利益についても、社会通念上甘受すべき程度を著しく超えるものとは評価できない。したがって、本件命令は裁量の範囲内であり、権利の濫用には当たらない。
結論
本件転勤命令は違法ではなく、債務不履行又は不法行為を構成しない。上告棄却。
実務上の射程
東亜ペイント事件(最二小判昭61・1・26)の枠組みを再確認した判決。司法試験では「業務上の必要性」「不当な目的」「著しい不利益」の三要素を定立し、特に「著しい不利益」の該当性を、単なる生活環境の変化を超えた家族の介護や病気といった特段の事情の有無から論じる際の規範として用いる。
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